第四十八話
「資格」

 突然トヨタが敵に回って糾弾を始めて、何言ってるんだこいつはという状態になった。
 フジマエは首をかしげながら、解説をもとめて横を見ると、 艦橋 かんばし が頷いていた。
「なんで頷いているんですか」
「トヨタさんとハママツさんの言う通りだなあと」
「あーやっぱり荒木さんは悪い人ですからねえ」
「いや、ここでいう悪い男って、 藤前 ふじまえ さんでしょ」
 なぜか艦橋まで敵に回っている。なんだこれは。技術の方を見れば名鳥が、後ろを見れば上司の香取が、それぞれ手で大きな×を作ってこちらを見ていた。それどころか管制室にいる全員が手で×を作っている。

 包囲網、完成。ちなみにどうでもいいことながら二つの世界で協力して同じことにあたるのは、今回が初めてだったとされる。

「いやいやいや、おかしいだろ。なんで僕が悪いことになるんだ」
 フジマエは血路を開かんとハママツに食ってかかった。どう考えてもおかしいだろうと言うと、ハママツは腕を組んで正面から受けて立った。
”はっきりしないから?”
「だから、僕は結婚反対だと、これ以上ないほどはっきりすっきり、くっきり言っている!」
 ハママツの目が細くなった。あ、怒る前の顔だ。
”どんな資格としてそんなこと言ってるのよ”
「それは……」
 一瞬、周囲を見る。全員が注目していた。
「あー、それはもちろん、一人の大人としてだな」
 画面の向こうでしゃがみ込んだトヨタがハママツに言った。
”殴れば殴れるわよ”
”え、え? どうやって!?”
”いいから、やってみて”
 ハママツが殴る真似をすると、頷いた艦橋がフジマエを殴った。
「いたっ! なんだそりゃ!」
”もう一度言うわよ。どんな資格でそんなこと言ってるのよ”
「いや、だから」
 艦橋と取っ組み合いながらフジマエが言うと、名鳥がいい笑顔でフジマエを殴った。ずっと前からやりたかったようなすがすがしい顔をしている。
「ちょ、おかしいだろ! 何で僕が、うわっ」
 香取が腕を回して華麗なドロップキックを決めた。歓声すらあがった。
”いい、もう一度言うわよ。あんたは一体どんな資格で”
 お前はローラ姫かなんかかと押さえつけられながらフジマエは画面を見た。ハママツは泣きそうな顔をしている。
 いや、だから。
「空気読め! 俺の周囲には人が一杯いるんだ!」
 場が静かになった。香取が顔をあげた。
「聞いたか。名鳥」
「聞きました」
「艦橋は?」
「録音してます」
 香取は頷いたあと、真面目な顔で言った。
「突然だが緊急事態につき、フジマエ以外これから15分の休憩に入る。はいおつかれー」
「お疲れさまでーす」
「お疲れさまでーす」
 皆が続々と部屋を出た。最後に出る艦橋が、敬礼して出て行った。
 フジマエは高速道路の管制の方を見る。全員が背を向けて聞こえてないアピールをしていた。
”で、どうなのよ”
「いや、だからな。まあ、なんというかつまり俺はちょっと年がいってるし、あと田舎に親が、いや、そもそもだな。せ、世界が違うんじゃないか」
 モニターに映るハママツの目から涙が落ちた。
「悪かった、いや、だから」
”私の事が嫌いなんだ?”
「嫌いなわけないだろう。一体僕がどれだけ眠れない夜を過ごしてきたと思っているんだ!」
”それを一言で言うと?”
 フジマエは血走った顔で画面を見た。トヨタさんが、目をつぶって耳を塞いだ。

 ここから先の数分間は、どうなっているか、本人たちにしか分からない。

 ちなみに筆者にも分からない。ので書かない。別室では管制室にいた面々がコーラで乾杯しており、このまま飲みに行きますかとかそういう話が出ていた。