第四十二話
「服」

 不自然なくらい、形の整った海岸沿いに移動している。不自然というか、かつて大規模破壊絶技が使われた後だろう。大妖精とも絶技使いとも言われるかつての支配種族の力は、あきれるばかりだった。
 それでいて長老によると、特に何も得ることなく死んでいったらしい。不毛、としか言いようがない。
 綺麗な円弧を描く海岸で佇み、力を持っているからって賢いとは限らないのね、とハママツは思う。
 そんな力あるなら道路でも作ればいいのに。そういう事を考えてしまうのは、 NEFCO ネフコ に毒されてしまったからだろうか。

 全ての敵をナガシノとシタラが引き受けたせいか。その後は静かに旅が続いた。
 窓が潰れてナガシノさんとは連絡がつかないと、フジマエは言う。それが本当なのか、優しい嘘なのか、ハママツには分からなかった。問い質す勇気がない。
 一応、嘘ではないと思う。少なくとも話す声に嘘特有の揺らぎはない。それが嘘だとすれば、本人も信じてしまっている嘘だろう。

”もう少しで岡崎だ”
「その割に元気なさそうじゃない」
”ナガシノさんと連絡が取れない”
 優しい嘘ではなかった。ハママツはため息。まあ、こいつがそんな器用なわけないって、知ってたけどね。
「死んだと決まったわけじゃないんでしょ」
”ああ。それについては担当者が何度も確認している”
「あんたじゃないんだ」
”二人も担当がいたら、死ぬ”
「なんで死ぬのよ。安全なところなんでしょ。そこ」
”心労で死ぬ”
「……私の事心配してるんだ」
”おい待て、何度も心配してたよな!?”
「してたけどね」
 何度も確認したくなるのは、なぜだろう。そこがちょっと難しい。
”心配してるー、心配してるー”
「歌、下手すぎ」
 それでもハママツは、ちょっと笑った。まあいいか、で許してやることにする。こんなことで許すなんて、終わってるね。私。
”歌でなら理解するかと思ったんだが”
「バカにしてるの?」
”真面目に言ってるんだ”
「じゃあ、あんたがバカなんだ」
”なんだと!?”
 ばーかばーかと楽器を鳴らして歌いながら歩く。フジマエは怒っているが、そこのところは本当にバカだと思う。こっちはこんなに優しく心をこめて、バカって言ってるのにね。
 脚が、急に止まる。気付かなかったが入江で一人の女の子が、花を摘んでいた。年の頃は自分と同じくらい。地味というか、貧乏な格好だと一目見て分かった。服のあちこちに継ぎ接ぎがしてある。生地もまあ、随分と古そう。
 その一方で、カラフルでおしゃれでもある。貧乏な格好とおしゃれカラフルは両立できるんだと、ハママツとしてはびっくりだった。
 目が、あった。相手は半笑いしている。
「あ、その、歌、どうぞ。こ、個性的な歌ですね」
 地味そうな花を後ろ手に隠して、女の子は言う。バカの歌を聞かれて、ハママツとしては大変恥ずかしい気分だった。
”変な歌なんか歌うから”
「あんたが先でしょ」
 あ、しまった、声にだしてしまった。女の子はなんとも名状しがたい顔をして、二歩下がった。
「あ、いや、こっちの話。えーと、その、素敵な服ね」
 女の子の顔が明るくなった。寄ってきた。
「ありがとうございます。実は私、服屋をやってるんです。まだ見習いですけど」
「あ、うん、そうなんだ」
「変わった服ですね。皮ですか。すごい、どんな種類の魚の皮ですか?」
「え、魚の皮って着れるの?」
 互いの発言に互いがびっくりした。女の子は目をさまよわせている。
「えっと、じゃあその皮は」
曳獣 えいじゅう 、だけど。野生化してるの」
 女の子は三歩下がった。
「怖くないですか、呪われたりしませんか」
”フジマエ、この娘なに言ってるの?”
 今度は間違えぬよう、心の言葉でハママツは呼びかけた。
”動物の皮がないというか、この地では獣を殺さないんだよ”
”戦闘騎はやっつけたんでしょ”
”いや、それとこれは別というか。資料を見ると、この地では牛みたいな、そっちでいう曳獣は聖なる生き物で、殺したり皮をはいだりしたら呪われると考えられている”
”なんでそんなことになってるのよ”
”農耕に広く用いられているみたいなんだが、戦争で数が激減してな。それで極端な保護政策をとったんだが、それが世代を経るうちに宗教的な信念、慣習になってしまってな”
”じゃあ、この人達何食べてるわけ?”
”魚と野菜かな”
”草かぁ”
 ひもじいと崖に生えている草を食べていたものである。ハママツはここも貧しそうねと、ため息をついた。こんなところに援軍頼んでも動いてくれるのかしら。
「呪われはしないけど。えっと」
”フジマエ、どうしよう”
”仲良くするしか”
”どうやって”
”がんばれ”
 なんて役に立たない 標霊 ひょうれい だろうとハママツは憤慨した。
「あー、なんて呼べばいいかな」
「私、エル……」
 なんか本名くさかったので、ハママツは慌てて女の子の口を手で塞いだ。フジマエに聞かれたら大変だ。
「ダメよ。本名言ったら。あーそうね。じゃあ、あんたオカザキさんということで」
「なんですか、それ。あと、別に女同士ですし……」
「甘い、甘いわよ。どこで歌が下手なフジマエが聞いているか分からないじゃないの」
”最近俺ばっかりにきつくあたってないか”
 ハママツは笑顔で久しぶりに喧嘩してやろうかと思った。いや、でも、まずはオカザキさんと仲良くなることが先決だ。