第九話
「休憩」

 ○ 希望世界 エルス ・高速道路

 昼過ぎ、私たちは休む事にした。休むと言っても高架になっている高速道路の真ん中、行き交う人の姿もない。せっかく作ったのにもっと利用者がいればいいのに。
 毛布を敷いて、少しでも地面から来る熱さを和らげようとする。が、熱いのは熱い。昼寝はちょっと無理そうだった。
「ここから藤枝までどれくらいかな」
 私が尋ねると、フジエダさんは腕を組んだ。
「ちょっと遅いから、30kmくらいかな。今10kmくらい歩いたところ」
 日本の高速道路と少し違って、こちらで作った高速道路には一里塚があってそこを数えながら歩く事で距離が分かるようになっていた。日本では道路標識といってもの凄く大きな看板をいくつも立てて、道に迷ったりしないようになっている。
 いつかはこのまっさらな道にも、たくさんの標識が並ぶ時がくるかもしれない。

 それにしても、30。30か。
「そんなに遠いの……」
「いやいや、一日くらいだし」
「一日?」
 いや、でも昼までに10kmなら、私の運動不足な足でも一日で20kmくらいは歩けるだろう。40kmの道のりなら二日というところだ。夜も歩けば40kmは無理ではない気がする。毎日毎朝10km走っていると言ってたフジエダさんなら、確かに一日で移動してもおかしくない。
「無限に遠いと思ってたけど、近いね。私には遠いけど」
「誰が通っても40kmは40kmだよ。日本じゃ2時間ちょっとで走る人間がいるんだって」
 半巨人なら1時間くらいだ。高速道路、凄い。ちなみに3年前、高速道路ができる前には20kmはそもそも移動できずに途中で死ぬと言われていたし、たとえ死なないにせよ山道を死ぬほど努力して7日はかかると言っていた。最後の方は食料が尽きて酷い有様になるとも。
 日本が何よりも先に道路の建設を進言した理由、少し分かる気がする。
 半巨人や巨人が荷物を運べば日をまたがずに届けることができる。そんな時代になろうとしている。そうなったときに、私たちの暮らしはどうなるんだろう。
 私はため息をついて懐に入ってまだコンクリートの話をしているモリマチさんを見た。小妖精はコンクリートが好きなのだろうか。
 水と材料の混合比率について蕩々と語るモリマチさんを懐に入れたまま、私はフジエダさんの両肩に手を置いた。
「それはそうと、モリマチさんはなんでこんなにコンクリートに詳しくなっちゃってるの? 病気?」
「病気は私も疑ったんだけどね」
 フジエダさんも同じ事を思ったらしい。フジエダさんは私に頬をくっつけるくらい近づくと、声を潜めた。
NEFCO ネフコ の技術研修を受けてたらしいよ。コンクリート技士の資格を持ってるって言ってた」
「なんで小妖精が」
「なんでって分からないよ。そんなの」
 唇をとがらせてフジエダさんは言った。まあ、それはそうか。しかし、NEFCO、何を考えていたんだろう。いや、小妖精の安請け合いで募集に対して応募したからだろうけど。
 私は改めて胸元のモリマチさんを見た。モリマチさんは気楽で自由な小妖精、なんにもしない小妖精という一般的なイメージとはかけ離れている。
 あれ、前からそうだったっけ。同級生だったのに、私はさっぱり覚えてない。小妖精だからと、それだけで考えるのをやめていたところもある。
 友達のつもりで最初から小馬鹿にしてただけの気がしてきた。良くない。友達としてとても良くない。
「というわけなのよ。分かった?」
 モリマチさんは長い話を終わったらしく、覗き込む私たちを見てそう言った。
 私は頷いた。
「凄いね。モリマチさんは」
 そう言った時のモリマチさんは、びっくりした顔だった。
 続いて下を見て、恥ずかしそうに両手で顔を隠して、そんなことないわよと言う。
「偵察してくるね」
 そのまま透き通る羽根を広げると、空に飛んでいってしまった。
「偵察ってなに?」
 上を見ながらフジエダさんは言う。私はフジエダさんの顔を見た。分かってなさそう。
「恥ずかしいんだよ」
 そう言ったら、今度はフジエダさんが恥ずかしそうな顔をした。照れ隠しで青空に目を向ける。
「たはー。私バカだから、恥ずかしいね」
「私も同じだよ。モリマチさんのこと、今までちゃんと見てなかった」
 私も青空を見た。モリマチさんと思われる光があった。羽根に光が反射しているのだろう。