第四十六話
「師弟」

○元現実世界・静岡県静岡市葵区

 どうしたものかと思いつつ、 NEOPASA ネオパーサ 静岡に帰りつく。
 迎えに出て来た 木林 きばやし は一緒について来たデカイタチの姿を見てのけぞったが、デカイタチが 石清水 いわしみず の陰に隠れようと努力しているのを見て考えを改め、寄ってきた。
「どうだ。避難民は見つかったのか?」
 木林はぺこぺこしているデカイタチを見ながら言った。
「いなさそうですね。もっとも、足で動き回れる範囲なんでかなり狭いんですけど」
 のんびりと石清水は言う。深刻そうに話すべきなのかもしれないが、下手に焦らせても良くはないという判断だった。
 木林はあーと、口を開けた後、石清水に目を合わせた。
「細かい事は余り言いたくないが、なんでドラゴンズじゃないんだ」
  法被 はっぴ の柄のことである。
「ドラゴンズだったら倒してました」
 デカイタチが怖っと言いながら尻尾を揺らす。NEOPASAの大きな駐車場を見る。
「なんか知らんものがぎょうさんあるな。ここ本当に静岡?」
「静岡ですけど 希望世界 エルス ではないですね」
「なん、やと」
 デカイタチのランディはそう言った後、長い首をひねった。
「ところで希望世界ってなに?」
 木林は膝から崩れそうになった。
「石清水君、今更ですまんがこれはなんだい」
「デカイタチのランディ氏です。いや、みんながみんなあれこれ気になってるみたいですが、僕もあれこれ気になってるんですよ」
 石清水はそう言った後で頭を掻いた。
「どうも落ちてきたのは戦闘騎だけではないみたいで。このデカイタチは無害です。有害ならすぐ」
「やめて!」
 叫ぶランディに苦笑する木林。思えばあれから初めて苦笑した気がする。
「うっかりなごんでしまいそうだが。さて、どうしたものか」
「どうもこうも、僕たちじゃどうしようもないですよ。自衛隊を待つしか」
「自衛隊が勝てるといいんだが」
「そこは大丈夫ですよ。僕が勝てるんだから。あいつら多分余り強くないです」
 ランディは尻尾の先まで震わせた。
「こっちには、この化け物みたいな人間より強いのがおるんか」
「ランディ氏は戦えるのかい?」
 木林の質問にランディは全力で首を振った。石清水は面白そう。
「まあ、彼も避難民ということでいいじゃないですか」
 そう言った後で、長々とわざとらしいため息をついた。
 何のため息だろうか。木林とデカイタチは目配せしあう。
「なんかお笑いからどんどん離れてますね。最近」
 石清水はそれと不肖の弟子のことばかりを気にしてた。
「まあ、それはそうなんだが、それはわざわざ言うものかい」
「ほら、口に出さないと僕、戦士とかになりそうなんで」
 戦士じゃなかったんかとランディは呟いて絶句した。ランディのない肩を叩く木林。
「まあ、その点は俺も同感だが。しかし、石清水くんがいてくれて良かったよ。むしろ入社してくれてよかった。前は格闘家だったとか?」
「そんな風に見えます?」
「見えない」
「ですよね。僕のこれはお笑いの修行と、あとはここ最近の授業の成果なんです」
「授業?」
「スルガさんに教えてたんです。お笑いを」
 長身の木林は腕を組んで目をつぶった。考える。目をゆっくり開ける。
「すまん。何を言ってるのかさっぱり分からないんだが。仕事でスルガさんの家来として手伝ってたんだよな」
「いえ、二人でお笑いの特訓ですよ」
「君は何をやってたんだ?」
 肩を揺さぶる勢いで見た目に反して真面目な木林は言った。石清水は苦笑い。
「他に与えられるものも自慢出来るのもなかったんで」
「呆れた。よく文句が出なかったものだ」
「んー。この方面については僕は NEFCO ネフコ の方が色々配慮足りてないんじゃないかと思っています」
「……今後日本やNEFCOがどうにかなるか分からないが、一応聞いておこうか」
「彼女に必要なのは自信ですよ。与えられたものではなく、自分で勝ち取る何かが必要だと思います」
「空が飛べて街を一撃で破砕できるのにか」
「だからこそ、ですよ」
「そういうものか」
 木林、子供はいてもそんなところが必要だと思ったことがない。ほっときゃ育つというのが正直な実感だった。むしろ、手取り足取り教えようとすると、ウザいとか言われるのが関の山だと思うのだが。
 まあでも、それは親の話であって、教師とか塾の先生という立場からするとまた違うのかもしれない。先生だって人間だ。教育は役に立つと思わなければやっていけないだろう。
 石清水の場合、おそらく親ではなくて教師の立場で言っているのだろう。様子からして本気で言っているし、言うからには実感も自信もあるに違いない。木林はそれで、石清水の言う事を納得した。元来頭は柔らかく出来ていた。デカイタチがいても驚きすぎない程度には。
 まあ、本当に教育がいるのかどうかはおいといて、大妖精には斬新で面白い経験だったのかもしれない。そう思えば、おかしくもなんともない。案外他人との繋がりが欲しかったのかも。
「なるほど。まあ、今後があるならスルガさんにもっと手厚いケアをすべきだな」
「そうですね。気がかりです」
 というか、2年で死ぬ。というのが石清水の懸念だった。弟子に先立たれるなんて嫌だと思っていた。