第四十五話
「天丼」

○元現実世界・静岡県静岡市葵区

 デカイタチと岩の上に座って困った困ったと言い合っていても仕方が無い。
  石清水 いわしみず は岩から飛び降りてデカイタチの艶やかな身体を眺めた。
「まあ、事態は大体分かりました。それで、こっちなんですが。えー、 NEFCO ネフコ って知ってます?」
「知っとるで、けったいな鳥やろ。根掘り葉掘り聞いとったわ」
「その 法被 はっぴ のこととか?」
「これはその後や。シミズの女神がわしらに授けはったんやで」
 石清水が歩くとデカイタチも追いかけてきた。四本足で歩くと目線の高さを合わせて横を歩いている。
「なんでついてくるんですか」
「戦闘騎おったら怖いやろ」
「なるほど」
 デカイタチは全長5mほどもある。人間が言うならまだしも、このイタチがいうのはどうだろう。いや、どうでもいいけど。
 しかしどうも話が噛み合ってる気がしない。いや、会話としてではなく、知識が噛み合ってない。NEFCOがこの面白動物と接触があった。しかも昔、というのも謎だ。それなら僕が知っててもおかしくない。
「んー」
「なんや。眉間に皺寄せて。宝くじでも買うたんか」
「なんで宝くじ買ったら眉間に皺できるんですか」
 うむ。このボケはなかなかいい。このデカイタチ意外にお笑いに向いているかも知れない。スルガさんと組ませるのもいいかも。いやそういう事態じゃない。
「実は僕、NEFCOの中の人なんですけど、デカイタチのこと知らなくて」
「あの鳥、人が入っとったんか。小さい人間もおるもんやな。え? 小妖精でなく?」
「小妖精と比べても小鳥は小さいのでは。いやそうじゃなくてですね。はっ」
 違和感の正体に石清水は気付いた。NEFCOが姿を見せなくなった後に日本文化を授けたというのがどうもおかしい。実際 希望世界 エルス と連絡が取れなくなってから、そんなに時間が経っているわけでもない。せいぜい7日だ。
「ちなみに、デカイタチさん、 綽名 あだな は?」
「ランディ」
「なるほど。よく打ちそうな。僕は石清水と言います。で、ランディさんに重要な質問があるのですが」
「おお。人間に教わっても人間に教える事があろうとは。なんやろか」
「NEFCOの小鳥は名前言ってませんでした?」
「フジマエ言いよったな」
 フジマエと言えば伝説の社員である。その動向はかなり詳細に社員に拾われていた。それで僕が知らないのは変だ。
「駿河湾沼津の領主の綽名とか分かります?」
「冷血のリプダだった気が。先代の大妖精が寿命で死んで、代わりが育つまでの代理監督だそうな」
「スルガさんはまだ小さかった気が」
「先代の大妖精の綽名やな。まあ、人間やデカイタチからすればそうやけども、大妖精寿命短いからなあ。NEFCO消えて2年と少しで、ぽっくりお迎えほなさいならや」
「まさかのロリババア設定!」
「なんやそれは」
「いえ、こっちの話です。ふむ」
 あれ、少女は師匠との別れを通じて大きく成長する的アレを思っていたのに全然違う展開だ。なんか恥ずかしい。いや、不肖の弟子め。
 デカイタチは尻尾を噛みながら石清水を見た。
「やっぱり宝くじ買うたんやろ」
「天丼はええから」
 うむー。と石清水は頭を掻いた。このデカイタチ、多分時間を越えている。おそらく未来からだ。となると、この辺りをうろついている戦闘騎も未来から来ているのだろうか。
 異世界の未来からこっちに、話がややこしい。これがお笑いのネタならダメ出ししたくなる。
 しかしこう、事態は分かっても、今の現状はちっとも好転していない。さてさてここからどうしたものか。不肖の弟子にはツッコミ入れるとして、さしあたっては行動の自由を得ないとな。
 デカイタチがぎゃーと言って離れた。その視線の向こう、50mほど先から戦闘騎がきひひとか笑いながら近づいてくる。
「人間の分際で我らに仇なすのはお前かねぇ?」
「はぁ。特に興味はないですが」
 戦闘騎は複数姿を見せた、4、5、もう少し。多分8だろうと石清水はあたりをつけた。理由は良く分からないが、やつらは2の倍数が大好きだ。少しは学習しているようで、距離を取って戦おうとしている。
 石清水は笑うとそのまま横の森の中に入った。走る。すぐに別の戦闘騎に出くわす。肘を叩き込んで鼻を潰し声帯を握りつぶし、自らの血で溺れさせた。なんの表情も浮かべずに、作られた包囲環を叩き割り、木々を盾に隠れながら走って1匹ずつ料理した。まずは3匹。
 悲鳴をあげてデカイタチが走ってくる。いい囮だとばかりに石清水は横をすり抜けると、追いかけてきた戦闘騎2、3の鼻を潰し首を折った。これで6匹。
「あんた、人間としては規格外やで。戦闘騎より戦闘向きの人間なんて聞いたことない」
「そうですかね。僕専門外なんでわからないですけど」
 デカイタチの白目はなかなか面白い。石清水はちと鍛えるかと考えた。鍛えればいいボケになるかも知れない。しかしスルガさんと組ませるとなると少しあざといかも知れない。可愛いものがお笑いをやるのはちょっと大衆演芸から外れる気もする。
 やはりお笑いというのはどこか自分の欠点を思わせるものが笑わせてくるから大衆演芸たりえるのではないか、と哲学的な事を考えながら、緩やかな蹴りでもう1匹の関節を折って倒した。
 森を抜けて最後の1匹に襲いかかる。戦闘騎は言う事が面白くないので石清水としては特に喋らせなかった。肘鉄一発、正面からで 轟沈 ごうちん させた。
 戦闘騎というもののいちいち勘にさわる言い方はボケとしても落第だが、速度も遅い。スルガさんと比較して100倍遅い。いや、スルガさんは修行を通してハチャメチャな速度に上がっていったから自分としても割と本気で避けていた。鍛えてやってるつもりで自分が育てられていた面がある。