第三十八話
「アイドル」

希望世界 エルス ・掛川

 高笑いと腕組みで現れた人というか大妖精は、科学忍者みたいな回り方で降りてきた。世界一ぞんざいに扱われている王冠が転がってくるので私が拾った。
 シズオカさん、だった。
 手を交差させ、人差し指を伸ばして決めポーズっぽい何かを取っている。親切だし恩人なんだけど、なんというか残念な大妖精だ。

「ようやくアイドルとしての活動をするみたいね。ずっと待っていたわ!」
 シズオカさんの場合、本当にずっと待っていたのだろう。多分正座して水鏡とか眺めながら出番を待っていたに違いない。
「そう、そうだよ!」
 調子のいいフジエダさんが私の手を握ったままそう言った。絶対今思いついたような言葉だ。
 フジエダさんは胸を張ってシズオカさんとハイタッチして一緒に踊っている。え、私も踊るの?
 メガネがずれるのでやめて欲しいと思いつつ、テンション高めの二人に付き合っていたら、頭の上に水が落ちてきてびっくりした。

 なぜかヌマヅさんが、雨のような涙を流してシズオカさんの姿を見ていた。以前に大妖精に酷い目にあわされたのかもしれない。女子会的な感じで一緒に一夜を過ごしたことがあるので、私たちの場合はシズオカさんが優しい大妖精だと知っているが、普通はやはり、恐怖を思い出すだろう。
 それで私はフジエダさんの手を離して上を見た。すぐにフジエダさんが私の手を握り直す。なんだろう。
「大丈夫ですよ。ヌマヅさん。シズオカさんはいい大妖精なんです」
「シズオカさん……? ああ、うん、そうか。変わり者の大妖精だね。いや、恥ずかしいところを見せちまったね。なんというか、昔、格好良い奴がいてね……」
 ヌマヅさんは尻尾みたいな木の枝を振りながら手で涙を拭いた。格好いい人って誰だろう。フジエダさんを見る。違ってそう。シズオカさんを見る。絶対違う。
 まさか、私?
 と言うほど私は私に自信を持ってない。冷静に考えれば私とフジエダさんは過去にヌマヅさんと会っているから、対象は一番ありえなさそうなシズオカさんということになる。
 シズオカさんは早速絶技の無駄遣い。音声を拡大して歌というか、子供向けアニメの主題歌を熱唱し始めた。う、うわぁ。というような感じだが、フジエダさんはノリノリで合わせている。えー。
 呆れていたらシズオカさんは手から軽くステッキを取り出してくるくる回転させ、光に包まれて服装を変えた。さすが、形から入る大妖精だ。と思ったらフジエダさんと私もあわせて服装が変わった。フジエダさんは似合っているけど、私は太ももと二の腕と腹が危険だ。危ない、危なすぎる。見れば半巨人のお姉さんたちがやんややんやと騒いで酒を飲んでいた。私の方に目が行って笑わないといいんだけど。

「何しているのよ、ほら、一緒に歌お?」
 フジエダさんはこういう時、肝が据わっている。私の手を引っ張ると、一緒に踊り始めた。私が踊るとみっともないよと言おうとしたが、フジエダさんもシズオカさんも私に合わせて動いてくれていた。みっともないとか言っていたら友達の好意まで台無しにしてしまう。
 意を決して踊る。恥ずかしがってるとこういうのは駄目だと思うので……やっぱり恥ずかしいけど頑張った。
 フジエダさんは上機嫌。サッカー以外でも楽しい事があるようでなによりだった。
 3曲ほど歌って踊ったら、脚がもつれそうになって、そのままフジエダさんに運ばれて舞台から退散した。シズオカさんは実に楽しそうについてくる。
「本当に人前で歌うと気持ちがいいね! アイドルっていいなぁ」
 シズオカさんは杖を振って小さく歌うと自分と私たちの服を元に戻しながらそう言った。
 まあ、うん。あなたが一番満喫してました。
 一方私ときたら。私はため息。フジエダさんは結構良かったよとかいうけれど、自分が一番駄目だったというのは、自分が一番分かっていた。今後も歌って踊る時があるみたいだしどうしたものか。いや、練習しかない。あと、本格的に痩せよう。そうしよう。太もも気にしながら踊るのは嫌だ。
 それにしても不思議なのは、歌も踊りも大好きなモリマチさんが姿を見せないことだ。私はフジエダさんをつついて声を掛けた。
「モリマチさんがいない」
「カケガワさんに声掛けてるんでしょ。ほら、あの娘ああいうのほっとけないから」
 そうなんだ。いや、確かにそれで私の所までやってきたんだから十分ありえる。今頃カケガワさんを必死に慰めているに違いない。
 しかし、モリマチさんが気を使う必要あるのかな。私はカケガワさんがあまり好きになれない。
 迎えに行くか考えていたら、私たちが隠れていた建物の裏までヌマヅさんが寄ってきた。私たちを見て笑顔を見せる。
「結構面白いじゃないか。確かにこれは一晩の宿賃と夕食代にはなるね。宿舎を案内させるよ。建物の中には私は入れないから」
 半巨人は建物を建てるのに雇われる割に、自分では建物の中に住むことがなく、だいたい大地に寝転がっている。天空巨人とは違う生活だ。宿舎もそのせいで、人間に合わせた大きさになっていた。