第三十七話
「メンドーサ」

希望世界 エルス ・掛川

 メンドーサ・カケガワと言えば、同級生がよく噂にしていた。あまり良い 綽名 あだな ではない。むしろ、悪い名前だ。面倒だからメンドーサ。
 質問攻めにして昼休みが潰れる上に嫌みを言っても気付いてない。ある意味無敵だと聞いたことがある。私はそれを聞いて遠い外国の話のように思っていたものだ。実際、在学していた1年と半分で、どれくらい話したものやら。
 そのカケガワさんは綽名通りに振る舞っている。雑草を抜きながら私の愚痴を延々と言い続けていた。
「シミズさんって薄情だよね」
「関係が薄いのと薄情をごっちゃにするのはどうかと思う」
 そう言ったら、傷ついた顔で見られた。なるほど。私はこの娘苦手だ。前もきっと同じ事を思って避け続けていたに違いない。
「まあ、確かに薄情なところはあるかもね」
 フジエダさんがなぜか手伝いだした。フジエダさんとカケガワさんは相性悪そうだけどそういうことやるのか。いや、この鶏ガラは何が言いたいんだろう。
「私のどこが薄情なんですか」
 私が言うと、フジエダさんはそっぽを向いた。
「天空巨人にデレデレしたりとかさ。はん。今までずっと一緒に旅した私たちをないがしろにして」
 いや言うほど日数掛かっていないだろうとか色々言いたいことはあるが、私はとりあえずフジエダさんに何言ってんだコイツ顔で対応することにした。
「ただおしゃべりしてただけです。それも重要なこと」
「そんなこといいながら結局切り出さなかったじゃん!」
「あんなこと言われて聞く方が変だよ!」
 フジエダさんと言い争っているとカケガワさんが両手を伸ばして中に入ってきた。私たちを見比べるように眺める。
「私の話はどこに言ったんですか。カケガワさんのことは! もっと久しぶりの再会なんだから私をセンターにしてください!」
 自分からセンターにとかいう人初めて見た。さすがメンドーサ。すごいメンドー。こんな人の味方するなんてとフジエダさんを見たら、フジエダさんは無視して私の方を見ていた。睨んでいる。
「どうしたの?」
「まだ喧嘩の途中!」
 フジエダさんはそれがよっぽど悔しかったのか脚を踏みならした。カケガワさんが私にしがみついた。
「フジエダさん怖い人だったんだね」
「怖いというか語彙が基本的に足りてない」
「あー。いますよねそういう人」
 私はカケガワさんをひっぱたいた。カケガワさんは腰が抜けたようで地面にへたり込んだ。
「今まで誰にも怒られなかったのに!」
「だからそういう性格になったんだと思う。可哀想」
 私はそう言ってフジエダさんの腕を取った。メンドーなだけでなく人として駄目だった。こんな人と付き合ってられない。
「行こう、フジエダさん」
 大股で歩く。フジエダさんは迷う素振りもなく付いて来たが、後ろを振り返ると顔が真っ赤だった。
「なんでフジエダさん顔赤いの?」
「いや、別に。でも宿どうするの?」
「あんな人に頭下げてまで泊まりたくない」
「考えなしなんだから」
「どっちが」
 私はそう言い返したが、反撃は軽微だった。フジエダさんは照れていた。何が照れくさいのか分からない。いや、今考えるのは宿のことだろう。
 仕方ない。ヌマヅさんを頼ろう。彼女たちが宿泊する宿に紛れ込むのが一番だ。
「どこ行くの?」
 フジエダさんが私の手を握って言った。そういえば一度手を離してフジエダさんの手を引くのを忘れてた。
「ヌマヅさんのところに行って宿を聞こうかと。嫌がらないでね」
「嫌がらないよ」
 え、この間凄い怒ってたのに。
 釈然としない気分だが、フジエダさんがしおらしいので私はため息をつくだけに留めた。掛川の入り口、村はずれに陣取る、見た目からして様式が違う建物の前に行く。庭では半巨人の人たちが寝転がっていた。ヌマヅさんも転がってお酒を飲んでいる。
「あれ、戻ってきたのかい」
 ヌマヅさんは座り込んで私の顔を見た。
「実は宿が見つからなくて」
「まあ、まだギクシャクしてるからねえ。うちに泊まる? 女ばっかりだから大丈夫だと思うけど」
「お願いします」
 私は頭を下げた。ヌマヅさんは手をひらひらさせて。いいさ。それぐらいと言った。
いい半巨人だ。
「しかしまあ、働かざる者食うべからずってね。駿河湾沼津じゃ小鳥だって仕事してたもんだ。何か出来ることを手伝って貰うよ。ちなみに旅芸人らしいけど、お笑いにはうるさいからそういう見世物はやめといたほうがいい」
「旅芸人、ですか」
 誰かの話とごっちゃになっているかと思ったら、フジエダさんが前に出てきた。
「じゃあ、歌と踊りはどうかな。私たち、アイドルなんだ」
「え、その設定まだ生きてたの?」
 私が尋ねるとフジエダさんに力強く頷かれた。モリマチさんはどうかと言えば、いなかった。カケガワさんのところに残ったらしい。凄い趣味だと思ったが、まあ、大丈夫かなと思い直す。黒い陶器兵がついて来てくれているので私たちの場所は分かるだろう。
 しかし、デカイタチはだませて、いやごまかせても、この人達はごまかせないのではないか。
 そう思ったら、上から高笑いが降ってきた。