第三十五話
「子供」

希望世界 エルス ・掛川

 巨人、エオミス様の手で私は運ばれた。優しい声の説教は、意外に心に刺さる。
 フジエダさんも反対というか左手で運ばれながら説教されている。ざまあという気はするが、この状況では相打ちというところ。

 街が見える。近づいてくる。
 見た感じ、古い街並みがそのまま残っているような感じだった。古くから人間と巨人が共存する場所だったらしく、巨人専用の道路があったり、住居の屋根が巨人の椅子になっていたりする。なんだか不思議で、面白い街という印象。
「おうぃ」
 下から聞いたことのある声がする。身を乗り出して確認すると、やっぱりそうだ。半巨人のヌマヅさんだった。
 エオミス様はまだ説教の途中なんだがという顔をしていたが、私たちを下ろしてくれた。
「見たような陶器兵だと思ったら、派手な登場の仕方するねえ」
 ヌマヅさんは私を見下ろして腕を組んで笑っている。巨人と違って半巨人は横になっても下を長時間見ても大丈夫という話を不意に思い出した。
「すみません」
「別にあやまるような事じゃないさ。他の種族と仲良くするのも悪くない。まあ、これは駿河の先代領主の話だけどね」
 ヌマヅさんは先代領主が大好きらしい。きっと、人の良さそうなおじいちゃんだったに違いない。渋い声だったんだろうなあと思っていたら、フジエダさんに後ろから抱きつかれた。というか、首に腕が回った。
「ほんと惚れっぽいよね」
「誰が?」
「シミズさん」
「え、私?」
 その発想はなかった。どういうことか考えていたらフジエダさんがどんどん機嫌を悪くする。
「もっと昔からの友達を大事にすべきよね」
「よく分からないけど構えって事?」
 フジエダさんが顔を赤くした。怒ったというよりはひるんだ顔。
「ちっ、違う!」
「そうなんだ。じゃあ何?」
「自分で考えなさい」
 こういう時だけそんなことを言う。意味が分からないと思ったが、まあ、フジエダさんは他種族嫌いというか、閉鎖的だ。言えなかったのもさもありなん。ヌマヅさんが気を悪くするのを気にしたのだろう。
 もう少し、交流を増やしてもいいと思うんだけどなあ。高速道路が出来て色々なものの行き来が増えるのだし。
 苦笑するヌマヅさんとエオミス様に頭を下げて、フジエダさんの元へ向かった。まずは宿を探さないといけない。
 あ、そうか、宿ならヌマヅさんに聞けばいい。そこで戻ろうと振り返ったところでフジエダさんに腕を掴まれて引っ張られた。
「宿を聞かないと」
「いいから!」
 いや、良くないだろうと思ったがフジエダさんは顔を赤くしている。半巨人なら頭から湯気が出るくらいだ。
「どうしたのよ」
「私の相手するんでしょ」
 何言ってるんだこの人。いや、このフジエダさんは本気だ。本気で相手して欲しそう。
「そんなに腕を引っ張らないでも。サッカーしたかった?」
「あんたねえ」
「理由話さないと分からないよ」
 私がフジエダさんの目を見たら、フジエダさんは目をそらした。そのままフジエダさんを観察していたら、フジエダさんは焦って手を振った。
「謝ってるでしょ!」
「いや、謝るどころか何も言ってないし」
 助けを求めてモリマチさんを見る。モリマチさんは「そこでチューだ」とか空中で小芝居をしている。さすが小妖精、全く役に立たない。いや、それでいいのだけど。
 私はため息をついた。宿をとりたいけれど、フジエダさんの相手をしないと宿は取れそうもない。しかし短時間で機嫌を直そうと行動すると、こういうところだけは聡いフジエダさんのこと、文句を言い出すだろう。
 まったくもう。もう少し社交的な人だと思ってたんだけどなぁ。
 仕方ないので手を握る。
「何して遊びたいの?」
「小さい子供相手か!」
「だって……」
 子供と同じじゃんと言ったら、絶対揉めそう。フジエダさんだって百万人に一人くらいの選抜で、10歳くらいで日本の高校に入学したはずだが、なんというか、子供だ。
「だってじゃない! こんな美人なかなかいないでしょ」
「私、フジエダさんが美人だから友達やってるわけじゃないよ」
 フジエダさんはあうあうと口を動かした。すぐセンターになりたがる割に褒められると弱い。なるほど。
「じゃあ、なんで付き合ってるのよ」
「同じ学校だったし」
 フジエダさんは何故か怒った。最近怒りっぽい。というか、朝食を抜いたせいだろう。お昼も粗末だったしなぁ。旅費も心許ないが、ここはやはり。大食い。それしかない。
「じゃあ、食事にしようよ」
「なんでそうなるのよ!」
「話が長くなりそうだったから」
 フジエダさんは横を向いた。
「まあ、長いけどね。いいわよ。宿とろう」
 モリマチさんがわーいと喜んだ。なんで喜ぶのかは、さっぱりわからない。小妖精は本来食事なんかどうでもいいはずなんだけど。
 私はため息。どうも真面目に日本に帰りたいのは私だけのような気がしてきた。