第三十三話
「天空巨人」

希望世界 エルス ・掛川

 遠くの雷雲を睨みながら、高速道路を慌てて歩いた。
 戦闘騎や陶器兵などを除けば、旅において雨ほど嫌なものもない。たたられると厄介だ。風邪でも引いたらかなりの確率で死んでしまう。日本のように薬があるわけではない。
 急いで歩いていたら巨人、それも半巨人ではなく天空巨人を見つけた。それも一人や二人ではない。大した人数だった。5、6柱はいるだろう。天空巨人は横になると死んでしまうので、数えるときは柱として数える。つまり、いつも立っているか座っている。頭に血を巡らせるために血圧が大変なことになっていて、横になると程なく血管が破裂するという。母から聞いた話なのでどこまで本当かは分からない。

 天空巨人は大きな団扇を持っていた。よく分からない。風車ではダメなのだろうか。
 こっちの黒い陶器兵を見て仲間と思ったのか、足をとめてこちらの到着を待った。

「おお、作り物とは」
 天空巨人の一人が黒い陶器兵を見て笑った。上から落ちてくる雷のような笑い声だった。
 巨人とはこういう生き物かと感心した。大きさは9mほど。布があまりないらしく、腰布だけという感じだった。下から見ると危険そうなので、ちょっと距離を取る。踏み潰されると危ない。
「娘達よ、こんなものなくても我々は危害を加えないよ」
 巨人は下を見るのも苦手だ。そこで私は黒い陶器兵の手に乗って、正確には指の上にまたがって、上に上げて貰った。これなら少し目線を下げるだけで会話できる。
 白いおひげがもじゃもじゃの巨人だった。昔は山の上にあって人間達からの信仰と尊敬を集めていたというし、人に文字や火を教えたのも彼ら、ということになっているが、大妖精達に追われて、数が激減した。大妖精も酷いことをする。まあ、知り合いの大妖精というかシズオカさんはそういうことはしなさそうだけど。
 白いおひげの巨人は優しく笑っている。なるほど。信仰と尊敬を集めるのも分かる。長老、という感じだ。長生き出来るだけの何かを持っていると思わせた。いや、それよりも優しそうなのが尊敬の秘訣なのかも。
「私はシミズと申します。掛川へ行こうと思うのです」
「ふむ。そうか。ちょうど仕事が終わって我々も帰るところだ。一緒に行こう」
 数歩歩いたところで、巨人は口を開いた。
「私はエオミス。風の巨人だ。今はまあ、団扇で風を送る巨人だがね」

 一番遅い私が黒い陶器兵に乗っているので、歩く速度は必然速くなった。フジエダさんは嬉しそうに走っている。悪い事をした。今までずっと、私に合わせていたのか。
「エオミスさまは掛川にいつ?」
「大昔からいたなぁ。何年になるかは分からない。まあ、長くだ。千年はいたろう」
 私は感心したあとで、眉をひそめた。でも掛川は数年前から入植が始まった新しい土地だったはず。しかし、嘘、と言う風には到底見えない。そもそも嘘をつく必要すらない。
 これについて尋ねて良い物かと考えたが、結局好奇心に負けて尋ねることにした。
「新しく入植されたところだと聞いていました」
「まあ人間が戻ってきたのは本当にこの数年だよ。子供達の遺体を片付けてくれたのが嬉しかった」
 巨人に子供なんて聞いたことないから、ここでいう子供とは人間のことだろう。天空巨人が人間を子供扱いするのは小妖精だって知っていることだ。
 私は想像を巡らせる。巨人達は丈夫なので生き残ったけど、人間達はそうでなかった。長いこと掛川で、自分たちの足下でほったらかしになっていた骸を、下を見ることができぬ巨人達はどうにも出来ずに悲しんでいたのだろう。ちょっと考えるだけでお腹が重くなりそうな話だ。多くの巨人は人間を可愛がっているだけに、それはとてもつらい事だったに違いない。
 エオミスさまはとても優しく笑っている。長い髭が綺麗だった。
「お前が悲しまないでいいのだよ。娘よ。いいのだ。戻ってきてくれたのだから。そして弔うこともできたのだから」
 なんともありがたい話だった。んー。歴史的に、ではなく、今でも巨人を尊敬するなぁ。私は。
 腕を組んでいたら下からモリマチさんが勢いよく飛んできた。敬礼している。
「はいはい伝令でーす」
「フジエダさんから?」
 いや、彼女しか下に居ないのだから尋ねるまでもない話だった。モリマチさんは頷いて私の耳に掴まった。
「シミズさんおじいちゃん好きなの? だって」
「えっと、バーカ、バーカって返して」
 モリマチさんが下がっていったと思ったらまたすぐ上がってきた。
「フジエダさん凄い怒ってる!」
 事実を述べただけなのにこの怒りよう。あ、ほんとだから仕方ないか。
 まあでも、喧嘩前の感じが戻ってきた感じがして、そこは良かった。

 エオミスさまは眉をあげて私たちのやりとりを見た後、楽しげに笑った。
「人間は良いものだ」
 そう言いながら悲しそうに見える。不思議だ。巨人にも色々あるのかもしれない。
 そうか、日本への連絡回復法、巨人なら知っているかも。私は下から飛んできたボールを避けながらエオミスさまの顔を眺めた。