第三十一話
「戦争」

希望世界 エルス ・高速道路

 不完全燃焼な喧嘩をすると、妙にギクシャクした感じになるものだ。モリマチさんには悪いけど、徹底的にやった方が良かった。まあ、徹底的にと言っても、目潰しもしないし武器も使わない。でも日本では、いや、学校では野蛮どころではない扱われ方だった。日本が異世界なんだと強く思った記憶がある。
 フジエダさんを見るに、フジエダさんも同じようだった。こういう感じ、大人になると変わるのだろうか。大人が殴り合いをすると大騒ぎになったり領主による裁判が行われたりするところを見ると、大人になると変わるらしい。とはいえいくつになったら喧嘩の意味が変わるのか、日本の学校も、こっちの親も教えてくれない。

「大人ってどう揉めごと解決するんだろうね」
 フジエダさんがそんなことを言った。期せずして私と同じようなことを考えていたらしい。モリマチさんが苦いというか渋いというか、とにかくおいしくない物を食べたような顔をしている横で、私は頷いた。
「どうしてるんだろう。私見たことない」
「見せないようにしてるのかもね」
 フジエダさんの言葉に私は頷いた。
「殴り合いはしてないみたいだよ」
「うん。それは分かってる。私が言いたいのは、それで解決してるのかなってこと」
 モリマチさんが手で大きなバツを作って私とフジエダさんの間を飛び回っている。やらないよと私は言った。言ったあとでフジエダさんに頷いた。
「戦争してるのは大人が喧嘩できないせいかも」
 フジエダさんはそんな事を言った。心情的に納得はできるが、子供が喧嘩しない日本では、戦争していない。私やフジエダさんの知らない何かがあるのかもしれない。
「ぶーぶー、ダメです。お姉さん喧嘩反対、大反対!」
 モリマチさんが怒りながら言ってる。フジエダさんがため息をついたのが見えた。私も同じだ。まあでも、二人同じため息をつくと、少しは仲直り出来た気分になった。
「仕方ないから、このまま次の街にいこうよ。掛川」
「うん。行こう」
 吟遊詩人さんに一言お礼をしたかったが、会えばまたフジエダさんとスパイだなんだで喧嘩しそう。それで心の中で厳重に頭を下げることにして、私は歩くことにした。
 また高速道路へ。黒い陶器兵がゆっくりと歩いてついてきた。
「こいつ、顔を変えてやれなかったね」
 フジエダさんがリフティングしながら言った。
「名前、何にしようかな」
 私が言うと、フジエダさんが顎に指を当てた。
「日本名がいいかな。私たちと同じ」
「そうね」
 とはいえ、ぴったりの日本名がなかなか思いつかない。黒いから黒ちゃんというのも、将来的に色を変えたいからちょっと付けがたい。
 名前を考えるうちに昨日来た細い道を抜けて高速道路に。高速道路だけはなんというか、こっちの世界から浮いているというか、他と隔絶している。日本からはそれこそ服のボタンとか、靴底とか、メガネとか色々技術が入って来ているのだけど、普段見る風景に溶け込んでいる。
「日本に実際に行ったことはないけど、日本に来たって感じがするね」
 フジエダさんがそう言った。
 私は頷いて、黒い陶器兵の上に乗せて貰った。物見のつもり。この間襲われたことがあったので、気を付けてちょくちょくこうやっていこう。
 今日も20kmくらいを歩くことになる。目指せ、午前中に半分の距離。出来れば歩けるだけ歩きたい。というのも、昼になって気温が暑くなるとどうしても歩くペースが落ちるからだ。涼しいうちが勝負だろう。
 まっすぐな道を歩く。測量をどうやったのか、気になるところだ。駿河湾沼津の領主に聞けば教えてくれるだろうか。いや、日本に再接続して、先生から聞こう。そう思えば足取りも軽くなろうというもの。

 黙って歩いて足がもつれたのは昼頃。それで休憩することになった。話によれば掛川まであと5、6kmらしい。あと少しというところだけど、ふくらはぎが痛かった。それで休憩。歩くには便利だけど休憩するには向いてないのが高速道路だ。路面が熱くてたまらない。それでモリマチさんが木陰を探すと言って、高速道路を降りて行った。
 私は黒い陶器兵の作る小さな陰に隠れた。具体的には股の下だ。私が暑さに耐えて立っていると、フジエダさんが無理矢理横に入って来た。狭い狭いと思うけど、暑いのは一緒だから我慢する。くっつきそうなくらいの横で、フジエダさんが私の耳にささやいた。
「喧嘩しない間柄なんてなりたくないね」
「うん。でも大人は喧嘩しないよ。あと日本人も」
「どうかなぁ。形を変えて喧嘩はしてると思うけどね。シミズさんは知らないだろうけど、日本の学校でも色々あったし。あんた敵ね、とかいきなり言われたり」
「そんな事あったの?」
「この世に楽園なんかないよ」
 フジエダさんはそう言って白い歯を見せて笑った。
「それでも日本に帰りたいんだ」
「うん」
 フジエダさんはそう言って私を見た。
「今なら二人きりだけど、喧嘩の続きやる?」
「今の話しといてそう来るんだ」
 フジエダさんはやっぱり頭がいいのかもしれない。学力とは違う方向で頭がいい。
 私はやめとくと言った。だよねとフジエダさんはまた白い歯を見せた。