第二十七話
「つじつま」

希望世界 エルス ・藤枝

 フジエダさんのお母さんはフジエダさんによく似ていた。暴力はダメだと言いながら娘を殴り倒しているあたりがそっくりだ。私やフジエダさんもケンカっ早いと思うけど、この人ほどじゃない。
「だ、大丈夫フジエダさん!」
「頭、頭揺らさないで」
 おっといけない。私は手を離した。フジエダさんが倒れた。フジエダさんのお母さんが私を睨んでる。
「うちの娘になんてひどいことを!」
「いや、お母さんほどでは」
「お母さん言うな! まだ40代よ!」
 うわ面倒くさいと思っていたら、地面に突っ伏していたフジエダさんが立ち上がった。手に角材を持っていた。さっきの母の一撃でついでに壊れた屋台の部品のようだった。
「暴力はダメだよね」
「いや、フジエダさん、武器、武器はダメだよ」
「これは暴力じゃない! 武力よ!」
「落ち着いてー!」
 どうにかこうにかモリマチさんと母娘をなだめた時には日が暮れていた。なんというかもう疲れた。私の上、折り重なるようにモリマチさんも疲れている。黒い陶器兵はこの間しゃがんで私たちの動きを見ていた。意外に可動範囲がある。いや、そうじゃない。
「フジエダさんが二人に増えると危ないね」
 モリマチさんがよろよろ飛びながら言った。それは私も思った。
 本人達はどうしているかというと、二人で楽しそうにおしゃべりしている。私と私の親より仲良さそうに見えるのが不思議だ。ちなみに私の所では、角材で親を殴ったりはしない。
「シミズさん、今日はもう遅いからうちに泊まろう」
 フジエダさんは罪のない顔でそんなことを言った。最初からそのつもりではあったけど、なんか、腹が立つ物言いだった。いや、それでも野宿よりはいいと、顔をひくつかせながらそうだねと言った。モリマチさんは私の笑顔が余程不自然だったのか、私の頬を引っ張って笑いを矯正していた。

 それで、フジエダさんの実家に入った。フジエダさんの実家は大きな細工物の店で、藤の枝を編んだ枕とか椅子を作っては売っていた。
 ショック、つまりフジエダさんはお嬢さんだったわけだ。ああ、そういえば着ている服は人間としては立派だった。すぐ泥にまみれるので、あんまり綺麗じゃなかったけど。
 フジエダさんの家は、住み込みの職人さん含めて50人からなる大所帯だった。それが、皆で揃って食事をするものだから広間は随分と大きなことになっていた。左右に分かれて四列で食べる。私たちはお嬢様というかフジエダさんの友人だからと随分上座に座ることになった。そういえば日本にも上座というものがあるらしい。
 上座から見る広間は、ちょっといびつな形をしている。船の解体材を使ってつくっているのもあるし、一部は戦前の石組みを利用しているためでもあるのだろう。じっと見渡していると段々平衡感覚が狂ってしまいそうなので、目の前の食事に集中した。
 食事は穀物を蒸したものに、大きな蛙の脚だった。この他副菜として海藻を固めたものが出た。湯で戻せる他、味付けしてそのまま食べられる。穀物によく合う。皆大食いらしくて穀物はどんどん補給されるようだった。これは嬉しい。
 一心不乱に食べていると、フジエダさんのお母さんが蛙の脚を解体しながら口を開いた。
「そういや、吟遊詩人が来てるんだって?」
「あんなの大したことないわよ」
 フジエダさんはそう言うが、かなり大した人だったと思う。それこそフジエダさんが暴れてなければ、私は後ろをついて行ってまた歌をねだるところだった。
 フジエダさんのお母さんは、半分目を閉じたあと、フジエダさんを眺めた。
「ま、何を考えた結果かは分からないが、いいんじゃない?」
「何を考えたって何よ!」
「結果が良ければつじつまはあうってやつよ」
 日本で言うところの終わりよければ全てよしと同じ意味だと思いつつ、私は食べるふりをしながらフジエダさんのお母さんの言葉に意識を集中した。
「玉蹴って遊んでばっかりの娘でも、最近、戦争になってる話は知ってるだろ」
「サッカーは偉大な文化だよ。お母さん、とはいえ、うん、知ってる」
「最初の方こそ駿河の領主が圧倒的に勝ってたんだけど、最近妙に岡崎の領主が盛り返しててね」
「ふーん?」
 フジエダさんは何にも分かってなさそう。しかしこの言い方だと、あの吟遊詩人さんは戦争に関わっているということになる。詩人がどうやって関わるのだろう。
 フジエダさんのお母さんはため息。私の方を見た。というか、私に向かって話し出した。
「話によれば白い戦闘騎が大暴れしててね。それがどうも、駿河の情報を掴んで動いているらしいのさ。それでことごとく裏をかかれているって話さ。最近じゃ戦闘騎だけじゃなく陶器兵まで使っているってね」
 食事に一所懸命で話を聞いてなさそうなフジエダさんの頭ごしに、私はフジエダさんのお母さんの顔を見た。
「つまり、誰かが情報を流している、と見ているんですね」
「そうなるね。ここに来てハネジネズミ隊が、怪しい旅人を次々しょっ引いて海に投げ捨ててるって話だ」
 私はヌマヅさんとの話を思い出す。どうも私たちは、思ったよりずっと危ういやりとりをしていたようだった。