第二十四話
「ヌマヅ」

希望世界 エルス ・高速道路

 昨日と同じくらい良い天気になった。私たちは大勢で掛川に向かう。というのもハイウェイパトロール隊というか、半巨人のヌマヅさんたちが、一緒についてくることになったせいだった。
 半巨人12、人間は私たちいれて22、小妖精1,陶器兵1。うん。大所帯だ。これで楽できるとは、少し思った。大勢の方が安全だし、何より急がないでいい。
 ところが、あてがはずれた。大所帯ともなると装備や荷物が大量になって移動速度も遅くなるものだが、パトロール隊は軽装で食料も一日分しか持っていなかった。水も少ししか持っておらず、こっちが心配になるほどだった。
「軽装ですけど、大丈夫なんですか」
「何が大丈夫なんだい?」
 ヌマヅさんは不思議そうだ。
「途中で野宿することになったり、とか」
「ならないさ。これだけ軽ければすぐ移動できるよ。たとえ人間でもね」
「えー。でも行った先で食料分けて貰えなかったらどうするんですか」
「そういうことはないさ。今はどこの街にも食料は行き届いている。普通に塩を持ってれば交換も簡単だよ」
 そうはいうが私としてはなかなか納得できない。ここに至るまで、結構、いやかなり苦労したのだ。
 いや、でもどうなのかな。デカイタチの村は単に私の足が遅かっただけだし。いや、いや、そうだ。
「この道、物騒だと思いますけど。ここに来るまでに陶器兵を複数見ました。それでシズオカさんのところというか、水の城に逃げこんだんです」
「物騒にならないように、あたし達がいるんだけどね。まあでも、確かに敵が道路交通を阻害しようとしてるのは確かだね。汚い話さ」
 なるほど。しかし、汚い話というか、それはとても優れた作戦に思える。高速道路が便利であれば便利であるほど、使えないことが被害をもたらすのは私にだって分かる。パトロール隊が組織されるのも当然だろう。
 日本もきっと、もの凄く苦労して高速道路の維持管理をしているに違いない。
  NEFCO ネフコ の人や学校の先生に聞いてみたいな。そう思うと、ちょっと寂しい気分になった。早く日本に帰りたい。いや、連絡を回復させたい。
「心配しなさんな。あたしたちが守ってやるから」
 ヌマヅさんは私の表情をどう認識したのか、そんなことを言った。私は苦笑いで返した。
「しかし、なんで子供ばっかりなんだい? 商売には見えないけど、掛川に親戚が移り住んだりしてるのかい?」
「いえ、あの。だから、日本との連絡を回復させたくて……」
「本気かい?」
「本気も本気です」
 ヌマヅさんは一瞬だけあらあらという顔をして、すぐに優しい顔になった。
「男かい?」
「いえ、私は友達が。男の子目当てはあっちで」
 私がフジエダさんを指さすと、フジエダさんは信じられないと言う表情を見せた後怒りだした。
「何言ってんのよ!」
「え、いや、別に隠さなくても」
 フジエダさんは跳び蹴り。私は避ける間もなかったが、ヌマヅさんが軽く腕で払ってくれた。
「いいじゃないか。好きな人がいるってことはさ」
 優しい声で言われて悔しそうな顔だったフジエダさんは、恥ずかしそうに横を見た。ヌマヅさんは歩きながら遠くを見ている。大人だ。私たちとは全然違う。
 格好いいなあと思いながらついて歩いていると、ヌマヅさんは不意に私の方を見た。
「先代領主が聞いたらどんな顔をすることやら」
「ど、どういう意味ですか」
「悪い意味じゃないさ。まあ、椅子から転げ落ちるとは思うけどね。喜ぶんじゃないかな」
「何を喜ぶんでしょう」
「あんたらの目的かな。日本との連絡を回復する。それが先代の悲願だったからね」
 悲しい事を経験することが大人になることなんだろうか。それだったら私はずっと子供でもいいな。そんなことを考えながら歩いていると、頭の中で色んな言葉が繋がりだした。
 つまり 駿河湾沼津 するがわんぬまづ の先代領主は男のために日本との接続を回復させようとしていて、それで道を作った。男の名前がイワシミズだかキバヤシというのではないだろうか。
「先代領主は今どうしているんですか」
「ん? ああ。風になったよ」
 妖精は死ぬと砂になって風に混じると言われているから、そういうことなんだろう。残念だ。先代領主にも会ってみたかった、どうやれば会えるかなんか分からないけど。
「まあでも、そんなに悪い生き方じゃなかったんじゃないかな。あんたらみたいなやつもいるし」
 ヌマヅさんはそう言いながら私を肩に乗せた。私が遅れ気味なのを気にしたと言うより、こっちの方が喋りやすいだろという感じだった。
 ヌマヅさんのどこか寂しそうな顔を見ていると、慰めたい気分になる。ただ、慰め方が分からない。
「先代領主ってどんな人だったんですか」
「ハチャメチャだったよ」
 私はフジエダさんを見下ろした。フジエダさんはさっきの事が余程恥ずかしかったのか、顔を隠して歩いている。耳が真っ赤だ。
 先代領主は大妖精だから思い浮かべるべきなのはシズオカさんなのかもしれないけれど、私はフジエダさんにかぶるところが多いように思えた。