第二十三話
「半巨人」

希望世界 エルス ・高速道路

 半巨人という種族は木から生まれたと信じられている種族だ。本当の巨人である天空巨人と比較して半分くらいの大きさがある。だから半巨人。大地巨人と呼ばれることもあるが、こちらは天空巨人が嫌うので、おおっぴらでは呼ばれなかった。
 彼女たちは屈強な戦士で、高い再生力を持っている。大体の怪我は水をやってほっておけば回復するというでたらめさだ。この力を見いだされてかつての戦争では大量に使われたと聞いたことがある。それでも数が足りなくて、大妖精たちは陶器兵を作ったという。

 その半巨人のお姉さんが、長い髪を振って言葉に詰まっている。
「えー、所属陣営ってのはね。つまり 駿河湾沼津 するがわんぬまづ と敵のことなんだけど」
「敵、ですか」
「岡崎ともいうかな」
 陣営が何を意味するかは分かったが、フジエダさんも私も困ってしまうような質問だった。親切そうな人なんで尋ねてもいい気がする。それで、挙手した。
「陣営については分かりました。それであの、陣営って人間に関係するんでしょうか」
 遡れないほど昔、まだ人間がどうにかして大妖精に対抗しようとしてた頃ならまだしも、その後の人間は歴史というか戦争の表舞台から姿を消していた。人間は戦力にならないので、敵も味方も無視したのだった。希に人間を大事にする大妖精がいてそれへの嫌がらせに攻撃されることもあるけれど、それ以上ではないはずだった。
 つまり私たちには、関係ない。
 フジエダさんと私が互いの顔を見て困惑していると、半巨人は小さくあー、と言ったまま黙った。人間向けの説明を考えているようだった。そんなことをしてくれるあたり、とても親切な半巨人に見える。だいたいの場合、半巨人と言えば路上で寝転んだり宴会したりして迷惑になるものだからその差は際立っている気がする。
 半巨人は考え込んだ後、苦笑して見せた。
「まあ、田舎の人間ならそうかもしれないね」
「都会は違うんですか」
 私の質問は笑顔で返された。
「違うねえ。駿河湾沼津は領主さまができた妖精でね。つまらないボケには厳しかったけど人間にゃ優しかったのさ」
「はあ……?」
 写真の被写界深度のことだろうか。半巨人は懐かしそうな目をした後、頭を振った。
「つまりは人間にも役割が与えられて仕事してるわけさ」
「厳しい話ですね……」
 生きるだけでも大変なのに大妖精にこきつかわれるとは、ちょっと、いや、かなり嫌な話だった。
「厳しくはないさ。生活はどんどん良くなってる」
 どの辺がそうなのだろう。ちょっと駿河湾沼津に行ってみたい。もちろん、日本との連絡を回復させてからだけど。
「まあ、ごく普通の田舎の人間って感じなのは分かった。その小妖精は?」
「友達です」
 半巨人は私たちの正気を確かめるような顔で眺めた後、少し笑った。
「なるほど。嘘じゃなさそうだ。それじゃあこの陶器兵はなんだい」
「そこの森の向こうにいる親切な大妖精が護衛に付けてくれたんです」
 私は正直に言った。というよりも、嘘をつく意味も意義もない。そもそも人間が陶器兵を扱えるわけがないのだから、あ、そうか。陶器兵のせいで私たちは怪しまれているらしい。なるほど。
 実用性が全然なさそうな陶器兵だけど、大きさはあるし、強そうに見えるのかもしれない。
 私が言うと、半巨人は日本にしかない幻の食べ物、梅干しを食べたような顔をして人間やほかの半巨人たちと話し始めた。
「なんか問題なの?」
 フジエダさんが私に聞いてくる。
「問題はないと思うけど……」
 話しているうちに半巨人が私たちの方を見た。
「あの水の城のお姫様がねえ。かなり偏屈なイメージはあるけれども」
「偏食家というか、食べ物を嫌がってはいました」
「どうやって生きてるんだか。まあいい。分かった。その陶器兵使って暴れるんじゃないよ」
「人間が使えるんですか、これ」
 日本語を若干理解しているような気もするが、陶器兵の操作システムは私には分からなかった。まあ、困ったらシズオカさんを呼べばいいと、そう思っているところもかなりある。
 半巨人は苦笑して私を見た。
「ま、そりゃそうか。んで、あ、そうだ。あたしはヌマヅさんってんだ。日本から贈られた名さ。元は漁師だったけど、今は高速道路のパトロール隊をやってる。黄色い服は日本風ってね」
「私はシミズさんです。あっちはフジエダさんに、小さいのがモリマチさんです。同じく、 NEFCO ネフコ に名前を貰いました」
「ほう。で、あんたに名前を贈ったのは格好いいキバヤシってやつかい。それとも駄目そうなイワシミズってやつかい」
 それが重要なことであるかのように、ヌマヅさんは言った。腕を組んでいる。私とフジエダさんとモリマチさんは互いの表情を伺う。皆、意味が分からない。
「えっと、学校に入ったときに最初から決まってて。NEFCOの職員さんとは関係ありません」
 私が言うとヌマヅさんは、なぜかニコッと笑った。
「そうかい。まあ、ま、そうだろうね。それとこれは強制ではないけど、どこに行くつもりだい?」
「掛川ですけど」
 ヌマヅさんは頷いた。
「あそこなら強い奴らが多いから安心だよ」
 強いのがいるから安心ってどんな話だろう。不安だ。