第二十二話
「高速道路」

希望世界 エルス ・高速道路

 私たちは静岡から離れた。美しい城から離れて、日本風の高速道路に戻る。
 護衛の黒い陶器兵は戦闘には向いてないだろうが、速く走れる点と疲れを知らない点では頼もしい気がする。次の目的地である掛川まではおよそ20km。フジエダさんによると今日中にたどり着くとのこと。私がへばったら陶器兵に運ばせようという魂胆のようだった。むしろ、最初から運んで貰いたい気もするが、またフカフカとか言われたら嫌なので、歩くことにした。夏までに痩せる。痩せてやる。
「今日はいないといいね」
 モリマチさんは高速道路を歩いていた陶器兵を警戒しているらしい。
 私はどうかなあと考える。黒い陶器兵の背を9mとして三角関数で、あ、そうかこの惑星の曲率を考えないとだめか。地球と同じならどこまで遠くまで見れるだろう。頭の中で計算する限りでは大雑把に言っても2倍以上3倍未満くらいで遠くが見えるはずだった。
 高度だけ、という話なら小妖精でもそれ以上の高さに到達できるけど、残念ながら小妖精は瞳の直径が小さいので遠くまでは見通せない。小さいことは良いことばかりじゃない。それを補えば絶技を使うことになって、またモリマチさんが怪我してしまうかもしれない。
 まあ、それに、モリマチさんには無理をさせたくない。
 物見として使うならフジエダさんが最適だろう。問題はどう納得させるかだ。
「シミズさんもう疲れたの? 早すぎだよ」
 私の心を全く知らずにフジエダさんは得意げな顔で言っている。何も考えてないそっちと一緒にして欲しくない。いや。
「そうだ。フジエダさん、陶器兵の上に登って物見して」
「私がいるよ?」
 案の定モリマチさんがそんなことを言ってきた。私は理屈を並び立てようとして、モリマチさんの顔を見た。いつも通り微笑む優しい顔。
「モリマチさんがまた怪我したら嫌だから」
「あー。そうだよね、分かった」
 思いのほかフジエダさんが素直だった。いつもこんな感じだったらいいのに。フジエダさんは猿のようにするすると黒い陶器兵の上に登っていった。黒い陶器兵が若干困ったように腕を動かしているのを見て、良く出来ているなと思った。中に小妖精とか入ってないといいのだけれど。
「どう、何か見える?」
 早くも肩の上に到達したフジエダさんに問いかける。フジエダさんは目を細めたり手で庇を作ったりしているが、どうも面白がってやっているようだった。そのうち転げ落ちそうになって、モリマチさんが悲鳴をあげた。
「やっぱり私がいく」
 モリマチさんが文字通り飛んでいった。最初からそうしたほうが良かったかもしれない。
「いやあ、眺めが良くってぇ」
 入れ替わりにフジエダさんが降りてきた。さすがにバツが悪いのか、頬を人差し指で掻いている。
「そんな事は聞いてません」
 私が言うと、フジエダさんは怒りだした。
「私だって怖かったんだから!」
「自業自得って言葉知ってる?」
「知らない」
 フジエダさんは横を向いた。言葉とは裏腹に意味は分かっているようだ。
 ため息をついていたらフジエダさんは涙目で私を睨む。なんて酷い奴だと言っているよう。人をフカフカ扱いする割に自分のことには敏感なのねと笑ってやりたいが、慌ててモリマチさんが降下してくるので中断になった。
「凄い勢いでこっちに走ってきてる。半巨人、数は12。あと人間20」
「高速道路だけに高速だね」
 モリマチさんの報告に、フジエダさんはそんなことを言った。
「半巨人はいいとして、なんで人間がついているんだろう」
「人間の護衛してるんじゃない?」
「その割には武器持ってるよ」
 私は横を歩く黒い陶器兵を見上げる。なんか理由が分かった気がした。多分これを見て、敵だと勘違いしたのだろう。幸いにも半巨人なら言葉が通じるので、荒事にはならない気がする。
 それでも一応、シズオカさんを呼び出せる準備をしつつ、陶器兵に手を振らせた。半巨人たちの速度がにわかに下がったので、どうやら読みはあたりだったらしい。
「逃げないでいいの」
 フジエダさんがそう言った。私は頷く。
「だってこっちには大妖精いるし」
「虎の威を借りるナントカだね」
「狐でしょ」
「知ってるよそれぐらい!」
 フジエダさんと口論する間に半巨人達が追いついてきた。手に武器など持ってないのは彼女たちが武器を生やせるせいだろう。一方人間はというと、皆息を切らしていた。大変そうだが、格好を見るに彼女たちも戦士らしい。
「どうしたんですか?」
 モリマチさんが言うと、半巨人は頭を掻いた。
「どうしたもなにも。あたし達はハネジネズミ隊」
「ああ、 NEFCO ネフコ のマークの」
「そうそう。いや、詳しいね、あんた」
 半巨人は植物質の尻尾を動かした。ただどんな感情表現なのかは人間である私には分からない。
 どう話そうかと思っていたら、フジエダさんは手を上げて左右を見た。発言したいらしい。
「はい、私たちアイドルグループです!」
「そのネタはもういいから。実は私たち女子高生で」
 私が言うとモリマチさんが口を開いた。
「日本との連絡を回復したいと思ってるんです」
 半巨人たちが一斉に吹き出した。笑わなかったのは一人だけ。私たちに話しかけていた半巨人の人だった。
「なるほど。変な陶器兵に変な連中と。で、所属陣営は?」
「所属陣営ってなんですか」
 私が尋ねると、半巨人の女の人は空を見上げた。0点の採点をしたときの先生みたいな顔だった。