第十九話
「フカフカ」

希望世界 エルス ・静岡

 シズオカさんは口を押さえた後、死んだ目で私を見た。絶技を使っている。
「それは本当?」
「もちろんです。煮魚の煮汁が固まるでしょ。あれと同じです」
 なんの絶技だったのか分からないが、シズオカさんは王冠を落として倒れた。世界一ぞんざいな扱いをされている王冠のような気がする。
 そして逆回しで浮かび上がるように起き上がった。目の端に涙を浮かべている。
「復讐する」
「えぇ!?」
「あの大妖精の口の中に生魚突っ込んでやる!」
「大妖精によるような気がしますがそれ、復讐じゃなくてごちそうです」
 シズオカさんは床に寝転んで駄々をこね出した。
「わーもーやーだー!」
 フジエダさんが寄ってきた。
「なんか、シミズさんに似てる」
「言うと思った」
 もちろん私は、そこまで酷くないと思う。多分、だけど。しかしまあ、小さい子供みたい。妹がいたらこんな感じなのかなぁと私はシズオカさんを抱き上げて撫でた。撫でるうちに静かになった。
「シミズさんは何をしているの?」
「よしよし?」
「なあに? それ」
「人に抱きつくと安心するんです」
「シミズさんはフカフカなんだよ。運動不足だから」
「おい、骨柄」
 私とフジエダさんが言い争うのを、モリマチさんがまあまあとなだめた。シズオカさんは抱かれたまま不思議そうに見ている。
「フカフカ」
「それ以上言ったら大妖精といえど許されません」
「そうなんだ。悪い事なの?」
 シズオカさんは素直すぎて、怒るに怒れなくなる。私はため息。
「悪くないよ」
 横からフジエダさんが口を出した。私はフジエダさんを手で追い払った。
「気にしてる人もいます」
「どういうこと? 中立的なこと? 解釈が分かれること?」
「いや、なんというか」
「ぽっちゃり」
「おい鶏ガラ」
 モリマチさんが笑いながらなだめてシズオカさんに話しかけた。
「フカフカは正義ですよ? 大妖精さま」
「そうなんだ」
 シズオカさんが思いっきり抱きついてきた。いや、これは、どう、なの。
「いいかも知れない」
 いやいや、私まで変な気分になるところだった。危ない。
 シズオカさんを引き離して、私は運動しようと決意した。脱フカフカ。
「ところで 三妖 さんよう はどこに行こうとして何をしようとしているの?」
 シズオカさんは名残惜しそうに自分の手を見た後、そんなことを言った。
「三人って事ですか、実は日本との接続を回復したくて……」
 そこまで言って私は大妖精が支配種族であることを思い出した。
 フジエダさんを見る。駄目だ、こいつは何も分かってない。モリマチさん、残念何も考えてなさそう。
 私は二人を呼んだ。ひそひそ話。シズオカさんも混じってるが、まあいいだろう。
「シズオカさんに聞けば、掛川とかにいかなくてもいいんじゃない?」
「ほんとだ」
「あっ」
「なんのこと?」
 シズオカさんまで声を潜めている。私たちは三人並んで平伏した。
「助けてもらって言うのは何ですけど、もう一つだけ助けてください!」
「皿洗いとかやります!」
「フジエダさん、食事の習慣がない大妖精にそんなこと言っても」
「熱意の問題だよ! そんなこと一々言うからフカフカなんだよ!」
「なん、だと」
「お願いします。友達に会いたいんです。私たち日本の高校に行ってて。あと私、人狼部でした」
「モリマチさんどうでもいい情報をぶっ込まなくても」
「シミズさんはいちいち細かいんだよ!」
「そうだそうだ」
 三人で喧嘩をしている横でシズオカさんは腕を組んで空を見上げて王冠を取って頭を掻いている。私たちは黙ってシズオカさんの発言を待った。
「日本は良いところだったけど……」
「まだ滅んでないよ!」
「滅んでません」
「私たち信じているんです」
 三人がかりで肩を揺さぶられてシズオカさんは顔をしかめた。
「気持ちは分かるし、私もアニメ見たいけど、前後の状況から見て日本が無事……」
 私たちの顔を見て、シズオカさんは肩を落とした。
「人間や小妖精に言っても分からないかもしれないけど、それでもよければ話すわ」
 三人で正座した。
 シズオカさんは白衣と眼鏡を持ってきて装着した。やっぱりこの人、形から入るタイプらしい。
「今を去ること400年前、徳川家康公が……」
「あの、私たち本当に日本に帰りたいというか、友達が……」
 シミズさんはさらに難しい顔。
 私は勘違いしたのかもしれない。
「あの、場を暖めようとしているのではなく?」
「全然さっぱりこれっぽっちも」
 三人で平伏した。シズオカさんはしょうがないなあと頭を掻いた。
「こっちでも400年前に道が開いたことあったの。東海道というんだけど」
 フジエダさんが私の方を見た。
「東海道って何?」
「日本にあった昔の幹線道路」
 シズオカさんは話の腰を折られて迷惑そうだったが、結局は話をしてくれた。
「割とかなり多くの日本人たちがぽこぽこ落ちてくるので、当時は困ったのよ。王朝作る人もいたし、戦闘民族だったし」
「はい! シズオカさん何歳なんですか!」
「これは聞いた話。私は生産から9年」
「9歳!」
 フジエダさんがまた話の腰を折りに来ているので私は彼女を黙らせた。
「続きをお願いします」
「うん。それでね。困ったので大妖精で連合を組んでちょっとやそっとの道ではこっちに落ちてこないようにしたのよ」
「なるほど。それで戦争で……」
「いや、それが、向こうというか日本が凄い道路作っちゃって。それが50年位前かな。あるいはこっちのバカ猫かなんかが絶技使ったのかもしれないけど」
 なんか、思ったのと、全然違った。
「はぁ。それで?」
「もちろん、さらにちょっとやそっとの道ではこっちに落ちてこないように術を強化したわ。だって人間とはいえ、別の世界に落ちてくるなんて可哀想でしょ。戦争直後でものすごーく大変だったけど」
「じゃあじゃあ、その術を解除すればまた日本と接続戻るんじゃない?」
 モリマチさんが良いこと言った。
「それならもう、やったの。ごめんね」
 シズオカさんはそう言って、頭を掻いた。