第十八話
「食事」

希望世界 エルス ・静岡

 魚に野草とくれば、旅の食生活としてはそう悪い方ではない。旅の友というか生活必需品である短剣を数本持ちだし、料理する。まずは下ろすところからだ。適当な石の上で作業。
 まずは頭の上に短剣を落とした後、内臓を抜く。内臓は内臓でおいしいのだが、今回は泥を吐かせる時間がなかったので、諦める。残念。鼠とかが湧かないように深い穴を掘って骨と一緒に埋めることにする。血合いも取ってうろこを落とす。三枚に下ろす。十分に身を洗う。これでも少々泥臭いが仕方ないと言えば仕方ない。
 お金の代わりに持ってきている塩を少し振りかけて短剣で削って作った串に刺す。三本。一本だとたまに火の中に落ちて悲しい気分になる。
 石を二つ並べてその間に串を置く。火力の調整が難しいのと生乾きの木だと魚が変な味になる。
 野草は魚と一緒に食べることにした。畑のものより風味が弱いが、泥臭さをいささかでも払ってくれる。
 魚の油がしたたり落ちて火を強くした。いい感じで身が縮んで皮側に反っている。身に虹色が出た。おいしそう。
「出来た」
「よし」
 フジエダさんとコンビネーションで串を持ち上げ、食べる。うまい。お腹空いていたんだと実感する瞬間だ。泥臭さが気にならないのは水が綺麗なせいだろう。
 おいしいね。という感想を言う暇もなく、一気に熱いまま食べてしまった。舌火傷しそう、いや、火傷した。しかしうまい。白身魚がうまい。日本の豊かな食生活に比べて、川魚だけはこっちの世界の方が料理がよく研究されているように思う。
 モリマチさんは石の上に腰掛けて、にこにこしながら私たちの様子を見ていた。モリマチさんは主として花の蜜を吸うが、実は食事しないでもいいらしい。味を楽しみたいので吸っている時もあるとのこと。
 はしたなくも指を舐めながら、フジエダさんは物足りなさそうな顔をしている。普段から私より沢山食べるくせに、フジエダさんは細い。納得いかない。
「この塩、 駿河湾沼津 するがわんぬまづ の?」
「うん」
 納得いかないながらも全然違う話をしてしまった。まあ、いい。いつかは私も誰かの百番目くらいの妻になれたらいいな。難しいかな。
「うちの付近にも駿河湾沼津の塩が来てるの。おかげでもう完全に駿河湾沼津の支配下って感じ」
「塩を握るのは強いよね」
 高速道路が出来てから、都市部というか駿河湾沼津にどんどん人が集まる現象が起きているという。湿気の多い清水からも人が移動する例が多いとも聞いたことがある。高速道路は人口や都市の形成にも影響があるかもしれない。

 私たちが料理して食べる間、シズオカさんは決して姿を見せなかった。再び姿を見せた時もガスマスクのようなものを付けて出てきた。食べるという事をなんだと思っているんだろう。
「大妖精って皆そうなんですか」
 失礼に当たらないか気を付けながら口にすると、シズオカさんは動きを止めた。
 重厚な呼吸音だけがする。そのうちばたばたと暴れ出した。呆然と眺めるうちにどうやらマスクが取れなくて困っているらしいことがわかった。慌てて、フジエダさんと二人がかりでマスクを外した。
「死ぬかと思った……」
「いや、なんでそんなの着けたんですか」
「だって魚焼き殺した匂いとかしたら怖いでしょ!」
「おいしい匂いだと思います」
 シズオカさんは無理無理と手を振った。顔がバッテンマークになりそうな感じ。
ため息をついてガスマスクを見るが、形が似ているだけで穴とかは開いてない。シズオカさんは形から入る大妖精らしい。いや、むしろ形から入ってそれだけで終わっている。

 私が遠い目をしているとシズオカさんは急に立ち上がった。今までになく真剣な顔をしている。
「あなたたちの食生活は間違っている! 私が正しい方向へ導きます」
 食に正しいとかあるのだろうか。栄養バランスかな。でも日本ではそれが正しいと話されていたけれど、こちらではちょっとピンとこない。食べ物をえり好み出来るから正しいとか正しくないとかがあるような気がした。
 胸を張って大きく手を振ってシズオカさんは食べ物を持ってきた。小分けされた箱に入った透明で綺麗な青い色をしたプルンプルンのヤツだ。
「ゼリーよ。どう? 駿河湾沼津から友好の証で貰ったの」
「シミズさんゼリーだよ! 日本の技術だ」
「まあ、うん。向こうの領主はもの凄い日本好きらしいから」
 私はゼリーを見た。透明感があるとても綺麗なものなのだが、青色の食べ物って、ちょっと怖い。いやまて、そもそもゼリーの原料って……。

 私はモリマチさん、フジエダさんと並んでシズオカさんがおいしそうにゼリーを食べているところを見た。三人で感動して抱き合っている。ぱぁと輝くような笑顔をしている。
「シミズさんもはやく、こっちに!」
 フジエダさんが電車に乗り遅れるぞという顔で私に言った。まあうん。
「そうよ。そしてこれを食べれば魚なんか食べなくなると思うわ!」
 シズオカさんは大きく手を振って言った。
 この際だから黙っておくべきか、いや、でも正確なところを伝えた方がいいか。
「えっと、そのゼリーの原材料、魚です」
 スプーンと王冠が落ちた。