第十五話
「シズオカ」

希望世界 エルス ・静岡

 大妖精の寝床は人間の寝床に良く似ていた。寝台があって、布団がある。
 問題は、寝台が一個しかないことで、私とフジエダさんは夜着になったまま、困った。
「さ、はやく、アイドルについて話をしなさい」
 同じく夜着のシズオカさんは正座してそんな事を言う。私たちは目配せして、この状況をどう訴えようかと考えた。
「あの、私たちの寝る場所は」
 シズオカさんは正座のまま寝台の上を叩いた。
「あ、一緒に寝るんですね」
「大きさは十分でしょ?」
 まあ確かに、三人並んで寝ても問題のない大きさの寝台だ。しかし、なんでこんなに大きいんだろう。支配種族だから?
「ちなみに、他に寝室とかないんですか」
「あるけど最後に掃除したのはいつだったか」
「わーい。ここのお布団良い感じ」
 遠い目をして語るシズオカさんにかぶせるように、フジエダさんが言った。布団にダイブしながら言った。
 そして二人して私を見た。
「シミズさんはどうなの」
「いや、えっと、ここで寝ます……」
 フジエダさんはすごいなと思うのは、こういう時にさも自分は最初からそう思っていたという顔ができることだと思う。呆れるよりも感心する。

「それでアイドルってどうなの」
「人前で歌うと気持ちいいよ」
 ふむぅと、シズオカさんが頷いている。どうやらアイドルに並々ならぬ憧れがあるようだった。私には分からない感覚だけど、憧れる人も種族にかかわらず一定確率いるらしい。
 それにしてもこの寝室、模型が沢山飾られている。日本側にある NEOPASA ネオパーサ 静岡も、模型が関連したものが沢山あるに違いない。私が工学系の会社の支援を受けて勉強できたように、シズオカさんもNEOPASAゆかりの企業などが協力したのだろう。単にシズオカさんが好きなだけ、という線もあるけれど。
 柔らかな寝台の上に寝転ぶと、即座に眠気が襲ってきた。何か食べないとと思う暇もなかった。

 目が覚めたのは身体を揺さぶられてから。時間はどれくらいたったのか分からない。
「どうしたの?」
 眼鏡を探しながら私が言うと、シズオカさんとフジエダさんは二人で並んで笑顔を見せた。
「モリマチさんが回復したみたい」
「何でそれ早く言わないの、信じられない!」
 私は5秒で着替えた。なぜかフジエダさんが酷いことを言われたような顔をしている。よく分からない。
「どうしたの、ぼっとして」
 私が言うと、シズオカさんがフジエダさんの頭を撫でた。知らない間に仲良くなったらしい。いや、私が寝ている間に仲良くなった、か。
 私はシズオカさんに連れられて廊下を歩いた。寝室から噴水のあったロビーまで、まっすぐの道で繋がっている。おそらくロビーを中心に、放射線状に通路が広がっているのだろう。でもそういう事を考えるのはあと、私はフジエダさんやシズオカさんを置いてロビーに向かっていた。

 大きな扉を体当たりするように開けて、私はロビーになだれ込んだ。
 そしてそのまま、へたり込んだ。

 ざらざらした感じの黒いボディ。赤い目。大きな盾。槍。大きさは10m近くある。
「どう、強そうでしょ」
 モリマチさんの声が聞こえた瞬間私は泣きだした。え、え、という声が前後から聞こえた。
「シミズさんしっかり!」
 フジエダさんだけにはそうそう言って欲しくなかった。なんでそんな平気な顔で言うのとフジエダさんの首をしめようとしたらモリマチさんがホバリングしながら寄ってきた。首をかしげている。
「良かった……モリマチさんが二足歩行の大型陶器兵になったのかと」
「なるほど。その手があったか」
 呟いたシズオカさんを私は睨んだ。シズオカさんはフジエダさんに抱きついて隠れた。
「人間なのに怖いよ」
「寝起きのシミズさん怖い」
 シズオカさんとフジエダさんは、交互に言った。私は立ち上がって三人並べと顎をしゃくって命令した。正座しろ。
 そして説教。たっぷり30分は説教したと思う、最後は泣いて心配したんだからと連呼してたから厳密には説教だったかどうかは自信がない。最後は皆に頭を撫でられた。おかげで眼鏡がずれた。

「で、この黒いのは?」
「今後無茶しないようにシズオカさんがくれたの。護衛だって」
 モリマチさんは黒いボディを見上げながら言った。
「なるほどー。っていや、戦闘前提なの?」
「だって、ああいうことあったじゃん」
 フジエダさんが横から口を挟んだ。まあ、確かに。安全と言ってもあまり安全ではなかった。まさか陶器兵がいるなんて。道路を利用する人が少ないはずだ。
「なんで陶器兵がいたんだろう」
 私が愚痴を言うと、シズオカさんが口を開いた。

「多分、敵が送りつけたんだと思う。敵というのは海老名、駿河湾沼津連合にとっての敵、という意味だけど」
 つまり、岡崎が交通を遮断するために送ったと。なるほど。戦線は岡崎にかなり近づいているし、岡崎側から見れば押し込まれている状況で、その原因を高速道路にあると看破したのだろう。
 でも、謎が残る。
「岡崎の領主って、人間だと聞いたことがあるんだけど……」
 陶器兵を作れるのは大妖精だけのはず。私がそう言うと、シズオカさんは口を開いた。
「確かに。でも、岡崎は戦闘騎も使っているの。真っ白な戦闘騎。人間がこんなことをできたりはしない。さらに戦線が膠着しそうなんで私の方にも双方から親書が来ているわ。援軍になって欲しいと。人間なら大妖精の言葉、知らないでしょ?」
 シズオカさんはそう言って陶器兵の黒いボディを見上げた。
「でも大丈夫、これなら並の陶器兵には負けないわ。日本からの技術導入あるし」