第十四話
「城」

希望世界 エルス ・静岡

 再び水の城に戻ってきた。水の城というか、水が流れている城というか。ぼんやりとした月明かりに照らされた城は緑に侵食されて廃墟のよう。ただそれは、美しい廃墟だった。
 城の周辺には浮かんでいる水晶の塊が見える。それの意味するところは分からない。

「ついたよ」
 着地しながらシズオカさんは言った。5mほどの陶器兵たちが灯りを持って並んでいる。こちらの陶器兵は日本のアニメの影響を受けていない。見れば古そうなものだった。
 髑髏を象った顔に、長い槍。左手に灯り。本来は盾を持っているようなバランスだ。
左右に並んだ陶器兵は槍を交差させて私たちの通る道を作った。そのまま城の奥へ続いている。
 おっかなびっくり、ついて行く。
 フジエダさんは半泣きの顔だった。それを笑えない程度に私の顔も引きつっていたように思う。だって怖い。先行するシズオカさんが鼻歌を歌ってなければ怖すぎて泣いていたかもしれない。
 城の中は、真っ白だった。明るく輝き、外の水が流れる音も聞こえない。温度はほっとする暖かさ。真ん中に噴水がある。室内に噴水というのは初めて見た。ここは中央の広間かなにかなのだろう。ドーム状になっている。
 シズオカさんは何事か歌うと噴水から棺桶を浮かび上がらせた。いや、棺桶というよりは少し小さい。そして透明だ。中を見ると眠っている小妖精がいる。
「これをベースにして記憶を映して表面を整形するね」
「ちょ、ちょっとまってください。それじゃあこの子は?」
「この子?」
「この小妖精」
「これは小妖精じゃなくて、私の予備、人間風に言うなら後継。まだ作り始めたばっかりだからちっさいけど。でもまあ、ちょうど良いサイズだからこれを身体にすればいいと思うのよね」
 不意に小妖精と大妖精の名前が理解出来た気がした。人間でいうなら 小人 こども と大人ってこと? 人を妖精という言葉に置き換えたということ?
 いや、いや、嘘。そんな。
 人間だって小さい時から大きくはなるけれど。私は透明な棺桶の中を見た。これが大妖精になるとは到底思えなかった。大きさは確かに小さいけれど、体つきは人間の大人に近い。対してシズオカさんはどう見ても子供というか、幼い体つきだ。疑惑の視線に気づいたか、シズオカさんは顔を赤くして手を振った。
「べ、別に子供っぽいのを気にしてこういうボディにしているわけじゃないのよ。ただ陶器兵に乗るならセクシー路線がいいかなって」
 何を言っているのか分からないがシズオカさんは大妖精の中でもかなり残念な人のような気がする。人じゃないけど。
 シズオカさんは私から目をそらすともう一つ、透明な棺桶を噴水から浮かび上がらせた。そちらにはモリマチさんを入れた。
「記憶の転送を始めるわ。多分4時間くらいかかるかな」
「助かるの?」
 私以上に何も分かってなさそうなフジエダさんは必死な顔で言った。シズオカさんはフジエダさんの顔をじっと見た後、笑顔を見せた。
「人間じゃよく分からないかもしれないけれど、助かるよ」
「あ、ありがとう。ありがとう」
 フジエダさんはどれだけ泣いたか分からないのに、まだ泣いた。泣いてシズオカさんに抱きついた。シズオカさんは驚いた顔をしたが、すぐに私を見て苦笑した。
「二人は姉妹?」
「違います」
「そうなんだ。よく似た反応していると思ったんだけど」
 反応が似ていたら姉妹と推定するのは人間にはない考え方だ。人間の普通は見た目の共通点から血縁関係を類推する。でも、さっきの見た目が自由に変更できるような話からすると、見た目で繋がりを判断することができないのだろう。
 なるほど。人間とは何もかも違う種族だ。
 それでも悪そうに見えないのは良かったと言うべきだろう。実際人間で言えば、シズオカさんはとてもいい人だ。彼女からすれば得体の知れない私たちを助けてくれた。単に脅威にならないからかも知れないけど、それでも。

 私は頭を下げた。
「お礼はきっとします」
「うん。私たち旅のアイドルなんだ。きっと借りは返すから!」
 え、その設定まだ生きてたの。フジエダさんの中では自分たちはまだアイドルグループだったらしい。デカイタチの村の件ですっかり懲りたと思っていた。
「アイドル、だと?」
 真に受ける大妖精までいた。
「いや、えっと」
「すごいアイドルグループなんだよ。デカイタチの群れを一瞬でノックアウトさ」
 フジエダさんの事が時々信じられなくなる時があるけど。それはこういう時だ。わざとやってるんじゃないかと思える時がある。
 というか、シズオカさんの鼻息が荒い。
「わ、私もアイドルになりたい」
 何言ってるんだこの人、いやこの妖精。