第十話
「陶器兵」

希望世界 エルス ・高速道路

 小妖精という種族はかつて栄華を誇った種族で、必ず双子で生まれてくる。日本で言うなら携帯電話のようなもので、どんなに距離が離れていても片方が片方の気持ちを理解するので、かつては戦争に便利だからと大量に作られていた。昔は一人に一羽以上の小妖精がついて戦争に欠くことのできない情報通信を引き受けていたという。
 でもそれは、あくまで気持ちを共有できる能力あっての話。モリマチさんのように姉妹の片方をなくした小妖精は弓の的くらいにしかならないというのが人間の一般的な常識だった。私やフジエダさんも、弓の的にはしないけど、そのあたりを歩いている猫程度に思っていた。
 でも違った。
 小妖精にも私たち人間と同じように個性があった。頭のいい小妖精がいたのだ。私たちは小妖精というだけで、それを理解しようともしてなかった。ただ NEFCO ネフコ や日本の人々は先入観がなかったし、日本に大量にあふれるマンガや小説、アニメのせいで差別する心がなかった。なかったから普通にテストをして成績が良かったので、特別コースに進ませて専門技術者として教育したのだろう。モリマチさんもそれによく応えた。
 ああそうか。私は青空に煌めく小妖精の羽を見て思った。私と同じかそれ以上に、日本を自分の居場所だと思っていた娘がいたのだ。
「ど、どんな顔で接すればいいか」
「え、何、なんの話?」
 私が独り言を言うのとモリマチさんが戻ってくるのは同時だった。私は両手を振って自分の過去の言葉を打ち消そうとした。もちろん意味はなかった。
「なんでもない。じゃ、いこうか」
「隠れたほうがいいよ。陶器兵が来ている。二個小隊」
 私が反応する前にフジエダさんが私を担いでモリマチさんをポケットに入れて駆け出していた。高架された高速道路の降り口は遠い。
「距離はどれくらいだった」
「2122m、2120m、2117……」
 どんな視力なんだろうと思うより、どんどん近寄られてきている方が気持ち悪かった。
フジエダさんが本気で走っている。私が走るより私を担いで走っているフジエダさんの方が速い。自分の運動不足を痛感した。体育の授業、自主トレばかりだったのでかなりサボっていた。
「1678、1674」
 高速道路の出入り口はどれくらいの間隔であるんだろうか。日本の高速道路だったら溢れるほど豊富な案内看板で迷うことがないだろう。ところがそれを真似たこっちの道路には、それがなかった。
 出口は1.5kmより遠いか、近いか。
 いや、1.5kmより近くても身を隠す場所を探す時間がいる。速度と距離が分かれば到達までの時間が分かるから、それで計算ができるはずだった。頭の中で必死に考えた到達までの時間は10分なかった。フジエダさんの速度が低下していくことを考えれば、もっと短いだろう。転んだりしたらそれだけで1分2分は短くなる。
「モリマチさん、出口までの距離は分かる?」
「6477m」
 逃げてもあまり意味はない。私は眼鏡を外した。でも戦うのは、もっと意味がない。幸いなのは敵が陶器兵ということだ。あまり苦しまずに死ねる。戦闘騎のような残虐な殺され方はしないだろう。
 でも、必死に走っているフジエダさんと数字を読み上げ続けるモリマチさんを見て、考えを改めた。何もしないのは、友達として駄目だと思った。
「小隊って、どれくらいなの?」
「4機」
 モリマチさんの声は計器のように冷静だった。普段とは全然違って、信用できそうな気がする。
 二個小隊は8機ということになる。こっちの高速道路の車線幅は一車線3.5mが基本だから、片側二車線だと7.0m。陶器兵は半巨人とは別の技術でだいたい同じ能力を目指して作られていて大きさも似ている。幅は2mくらいはあるだろう。上体の揺れを考えればびっちり並んで3体。余裕持てば横に2体で4機ずつ並んでいるはずだ。一度に対応するのは2体でいいというわけだ。それでも私たちでは勝てないだろう。
「道路上に障害物を置ければいいんだけど」
「せっかく道を作ったのに!?」
 顔を赤く、目を大きく開けてフジエダさんが言った。
「いや、それはそうなんだけど、私たちが逃げきるためにはそれしかないから」
 それに、一時的に置くだけでいい。陶器兵は書き込まれた命令をされていない限り道路上のものを掃除したりはしないはず。
「障害物ってなに?」
 フジエダさんがきつそうに走りながら言った。私は降りようとするが、フジエダさんは首を振る。
「シミズさんは遅いから」
「そうだけど、私を置いていけば」
「障害物って何?」
 かぶせるようにフジエダさんは言った。私は息を吸う。じゃあ、最後まで三人一緒だ。
「丸太とかでいい。何本か立てておくと迂回しようとするはず」
「丸太とか持って旅するわけないじゃん!」
「だから私を置いていけばっていったの!」
 モリマチさんが顔をあげて私を見た。
「丸太じゃないとだめ?」
「邪魔になるのならなんでも、でも、せっかく皆が苦労して作った道路だから、道が壊れないもので」
「コンクリートなら?」
「コンクリート持って旅するわけないじゃん!」
 フジエダさんが喚いた。そりゃそうだ。