第九話
「酒」

NEOPASA駿河湾沼津 ネオパーサするがわんぬまづ

 NEOPASA駿河湾沼津の上り線、その2階にあるレストランは海を一望できるとあってなかなか人気であり、今日は天気も良いとあって、平日から窓際の席は満席であった。
 そこの人気メニューである幻想交流カレーを食べながら、一人肩に風切って食事するのは、新生 石清水 いわしみず である。人は彼を、座りながら肩で風を切る男と呼ぶが、長いので割愛する。

 石清水は今、半巨人のお姉さんとの最後の戦いに向かう直前である。皮はカリカリ、中はジューシーに、から揚げのごとき気持ちで事にあたろうとしていた。
 作戦はこうだ。これより渾身のギャグを持って半巨人の腹筋を崩壊させ、病院に送る。むろん、笑いの大音量で始末書は免れぬであろう。だが、肉を切らせて骨も断つという言葉がある。これだ。もはや、これしかない。
「肉を切らせて骨”を”断つじゃない?」
 遅れて現れ、目の前の席に座った革ジャンの男が希望世界メンチカツを食べながらそう言った。
「僕のモノローグに口を出さないでください。分かってますよ。分かったうえで言ってますからね」
「最近じゃ独り言をそう言うのか」
 革ジャンの男は長身で、贅肉ひとつない、黙っていれば素敵なおじ様である。この年齢で腹が出ていないとは、周囲から刺されてもおかしくないが、彼は不思議とそういう雰囲気がなかった。
 石清水はカレーを食べ終わった後、身を乗り出した。
「ところで、あなたは誰ですか」
「援軍、かな。あ、 木林 きばやし です」
 突っ込みのいない会話はつらい。ボケるばかりで話が進まぬ。さておき、木林は名刺を出した。
 中日本エクシス株式会社、すなわちサービスエリアやパーキングエリアの商業施設を管理運営する会社である。
「ちなみに前にいたところは NEFCO ネフコ で、企画部の部長でした」
「おー」
 肩で風切っても肩書と上下関係には弱いのが日本の社会人である。石清水は何度か頭を下げた。
「で、その木林さんが何か?」
「半巨人のお姉さんが酒乱で動かないそうじゃないか」
「ええ、まあ」
 今日、倒すつもりですとは石清水は言えなかった。失敗した時恥ずかしいからである。
 木林は口元に皺のある味わい深い笑顔を見せた。
「動かない巨人を動かす。面白いじゃないかと思ってね」
「そのためのNEFCOです」
 木林は石清水の言葉を聞いてない。小声でジングルを歌いながら名刺の上に張られていたシールをはがした。
”NEFCO 一日巨対災係”
「ちょ、おま」
「よろしくね!」
 おいまてこら、俺の一回前の覚醒はどうした、ここはラノベらしく俺無双だろと石清水は悪態をついて喚いたが、木林は殿様のごとく笑いながら一升瓶を片手に持って大股で歩いて白い布に囲まれたエリアに入った。
 モニター向こうの半巨人で大虎のお姉さんが、何事かと顔をあげた。
 一升瓶を床に起き、笑顔を見せる木林。いや、だから、僕が主人公ですよと石清水は言ったが、半巨人のお姉さんは聞いてなかった。
 面白そうに笑って、座り直すお姉さん。
「どけろっていいに来たのかい?」
「いや、一緒に酒を飲めないかと」
 木林が言うと、半巨人はちょっと恥ずかしそうに笑った。
「ブレーク、ブレーク。ちょっと待て、おかしいでしょ」
 間に入って手を広げる石清水。
「半巨人のお姉さん、なんでちょこんと座り直してるんですか」
 石清水は鬼のような顔で言った。
「あと、酒飲むな」
 石清水は般若のような顔で木林に言った。
 木林は一升瓶をまわしてラベルを見せる。NEOPASA駿河湾沼津で多種多様に取り揃えてあるサイダーの一つ、さつま芋サイダーであった。
 騙された! 乙女のような顔でもう片方の半巨人を見ると、半巨人は指で前髪を弄んで外見を気にしている様子。石清水は親友に裏切られた顔をしてエウレーカ、エウレーカと叫びながら両手をあげて走り去ってしまった。
 世界と異世界のあっちとこっちで石清水を視線で追いかけた後、木林と半巨人は顔を見合わせて、微笑みあった。
「そんじゃ飲みますか」
 木林は静かに言った。
「いいのかい。あたしなんかと飲んで。イワシミズは? それと、あんた騎士かなんかだろ」
「今日のところは管理職と飲むんじゃなくて、俺と飲んでください」
 木林はそう言って、ニッと笑った。