第五十二話
「外伝 石清水調査記録」

〇外伝2 石清水調査記録

  石清水 いわしみず という男がいる。謎多き人物で、彼がどんな人間であったかは、あまり知られてない。日本では知ろうという人間も少ない。
 そこで、取材をすることにした。彼の妻の証言をもとに、大阪へ行って調査した。
 通天閣もほど近い西成区で、彼の足跡を見つけることが出来た。

 夏の終わりの雨上がりの夕方。昔ながらというべきか。銭湯の前、通りに縁台が置かれてあって、そこで歳を取った労働者が一服しながら風呂の後を楽しんでいた。

「石清水……いたかな。そんなやつ」
 話しかけた男は首をひねって別の数名に声を掛けた。皆よくわからない顔をしていたが、一人が声をあげた。
「あれや。格闘王や」
「あー。格闘王か。そういや格闘王はそんな名前だったな」
 向き直ると男は煙草を吸って口を開いた。
「あ、格闘王ですか。西成でもそりゃ有名なおじさんたちのアイドルでね。学生ボランティアのお笑い芸人いうたら、そらまあ金寄越せってレベルのひどいのが多いんですけど、格闘王のやつはツッコミのキレがいいってんで一時期評判だったんですよ。プロになるのも間近と言われてました。あんなおもろいのを世間がほっとくわけがないってね」
 男は遠い目をした。惜しいものを見つけたような。そんな目だった。

「でもまあ、なんというか芸の道ではまあまああるんですけど、調子に乗ってどんどん鍛えていくうちに、あれです。キレが良くなりすぎて観客がドン引きしはじめましてね。本人悩んでさらに鍛えて、なんというかプロの格闘家なんて相手にもならないくらいの人になったんですわ。最後の方はもう一人CGの世界ですよ。誰も笑えないというか、口開けて、ぽかーんですわ」
 男は真顔になった。
「いや、凄いんですよ。ただ笑うには凄すぎるってだけで。凄すぎて近寄るのも難しいくらいに、なんというんですかね。オーラみたいなものが出てたんですわ。それでまあ」
 別の一人が口を開いた。
「夜逃げしたんや」
 男は苦笑して頷いた。
「まあ、そういうわけやな」
 話はそれで終わりなのだが、帰りしな、彼のその後を知っているか、尋ねてみた。
 いろいろな返事が返って来た。
 ある人は、「人殺しになったんやないか」
 別の人は、「いやいや、笑いの方向性変えて今でもどこかで漫才やっとるやろ。身体の動き程でないにしてもしゃべくりもよかったし」
 また別の人は、「いやいや、武者修行でロシアあたりにおるんやないか。熊とかにも勝てるで、格闘王なら」
 そんな事を言った。
 本当の答えはどれとも違うが、どれにも似ている。

 いずれにせよ。彼があの騒ぎの時に寡兵良く戦い、多くの人を助けたのは事実である。

スルガ篇