第四話
「思案」

○川崎管制センター

 川崎管制センターでは NEOPASA ネオパーサ 駿河湾沼津の酒のお姉さんが話題になっていた。
 いっそ、ポスターにするのはどうだろうとか、ビール会社などとコラボするのはどうだという話になっていて、余り深刻な話題にはなっていなかった。
 この隙に、川崎では新参の 艦橋 かんばし は資料に目を通す。勉強熱心? そうでもない。
 艦橋は、資料を見ながら別の事を考える。コーヒー飲みながら、真面目そうに。いや、実際真面目というか、気になって仕方がない。

 考えることは 藤前 ふじまえ のこと。いや、正確には藤前が連れてきた、女性のこと。浜松さん。
 前後の事情から考えて、あの浜松さんはハママツさんだろう。それ以外には考えられない。
 同一人物だとすると年齢の計算があわなくなるが、一旦はさておき、問題なのは同一人物であろうということだ。
 つまりは、なんだろう。 希望世界 エルス とこの世界は何らかの手段で移動できる、ということだろうか。
 艦橋は新調した眼鏡の奥の目を動かして、一宮管制室の面々が全員配置転換された事情を考える。表向きは藤前の件の悪ふざけが過ぎての処分だったが、あるいは固まって話し合いが出来ないようにした結果かもしれない。

 まあ、そうだよね。異世界に行けるとなれば、ちょっと話がややこしくなりすぎる。公的側面が大きいとはいえ一企業である NEFCO ネフコ が独占的にやるにはちょっと色々ありすぎる。
 例えば戦争で荒廃した大地に日本のゴミを投棄させて貰うとか、ある日日本の領土が二倍になりました、とか。こんな情報が可能性としてちらりと出ただけでも、僕あたりは良くて暗殺、悪くて周辺含めて皆暗殺、だろう。考えすぎかな。いや、情報の重大性は対応の強度を強くすると昔の職場で習った。残念ながらどこの国も、価値があれば人を害することを致し方ないで済ませることはあるのだ。
 一人の女の子の願いを叶えるためとはいえ、岩井さんは特大の爆弾カードを切った気がする。

 まずいなあ。どう考えてもまずいなあ。名鳥さん本当に仕事辞めてるとかならいいんだけど。事故死とかしてないといいけど。あれだよな。風呂場で浮いて見つかるとか。わー。

 その上で。
 艦橋は眼鏡を指で押した。
 浜松さんは時間を遡った可能性がある。となれば、特大どころの問題でもなくなる。有事を超えて、一瞬でこの国の非常事態になる可能性が高い。
 方法が希望世界経由になるにせよ、過去に戻れるとしたらどうなる。なんか歴史やり直してみようかとか、あるいは世界の歴史を守るためとか、そういう争いの中心にポンと置かれることになるんじゃなかろうか。時間を遡る方法や技術を巡って、戦争が起きてもおかしくはない。

 まずいはずのコーヒーの味がしない。

 携帯で元同僚と連絡するとか、ちょーっと自粛してみようかな。なんて。いやまて。まだ大丈夫、まだばれてない。僕が僕の身を守るためにとりあえずやっておくべきことは、素知らぬ顔で真面目に仕事することだ。今のところそれしかない。

 どうしてまたこんなシリアスな話になったと膝をガクガクさせながら、艦橋はコーヒーを口に含んだ。こんなのは自分のキャラじゃないと思った。