第二話
「川崎管制」

○川崎管制センター

  希望世界 エルス 側の駿河湾沼津の NEFCO ネフコ 管制室は川崎市にある。例によって NEXCO ネクスコ 中日本に間借りしており、NEXCO中日本川崎道路管制センターが正式名称である。
 1階はNEXCO中日本コミュニケーション・プラザ川崎という名前で見学者を受け入れてもいる。たまに希望世界の展示もして、ファンを喜ばせることもあった。
 異世界との交流でNEXCO中日本の施設に間借りする理由は、これはセンサーの塊と言うべき新東名高速道路の情報を流用して異世界の観測と連絡を行うためであった。
 実際、道路の安全のために各所にカメラの他、気象観測機器を設置して、リアルタイムで気象状況を把握している。また、主要な料金所には地震計も設置されており、揺れ方や規模を計測している。
 これらは文字通りの天候情報や渋滞情報や落下物や故障車の注意情報拡散など、利便性と安全性の両立を図るため、活用されていた。近年では車に乗っていてもこれらの情報を提供できるようになっている。
 定点観測の情報という意味では、規模、質ともにこっそり世界屈指のレベルにあるのが日本の高速道路である。

「エルス岡崎とNEFCOの関係が悪化したって、本当ですか」
 一宮から異動してきた 艦橋 かんばし は管制室に詰めている者にそう言われて、対応に苦慮した。高速道路の管制室には事故対応などのための専門の要員がいるのだが、その一人が妙に希望世界にも詳しかったのである。
「えーと、その情報はど、どこから?」
「義勇社員掲示板ですけど」
 機密ってどこにあるんだろうと艦橋は遠い目をしたが、希望世界の情報についてはなるべくオープンなものにするというのが、この頃のNEFCOの方針だった。独占的に情報を持つと管理コストが余計にかかり、異世界を私物化していると言われぬよう配慮した側面もあるが、異世界研究をやりたがる大学や、地域おこしに繋げたい地方自治体など、この頃は色んなコラボレーションが増えて、異世界情報に触れる機会が増えたせいもある。
「ええと、なんというか、その恋愛沙汰がですね」
「あー」
 納得顔で彼は仕事に戻っていく。艦橋はどんだけ 藤前 ふじまえ さんの情報が拡散しているんだろうと再度遠い目をしたあと、コーヒーを注いだ。もとはといえばNEFCOの管制室でコーヒーを切らして、NEXCOの管制室からちょっと拝借しようとやってきたせいであった。

 先日、色々あって、本当に色々あって、エルス岡崎、即ち希望世界側の岡崎と関係が悪化した。花嫁を取られたと向こうの領主は腹を立てており、NEFCOは事態収拾のために東奔西走している。
 まあ、交流すれば色恋の花が咲くときもありますよねー。と艦橋は思ったりもするのだが、意見としての多数派ではもちろんない。
 NEFCOの対応は、先方に謝るほかに、再発防止策を立てつつ関係者を処分するものだった。
 艦橋が川崎に異動してきたのもその関係である。
 本人としては背中を押した手前まあ、しょうがないと思っているが 名鳥 なとり はこの対応に腹を立てて退職してしまった。
 気持ちは分からないでもないが、さてさて。
 艦橋は自分の席に座って資料を見る。希望世界の駿河湾沼津は半巨人と呼ばれる人々が結構いて、向こうの映像を見ると遠近感が狂って仕方ない。
 この半巨人、トヨタさんみたいな巨人と人間のハーフ、ではなくて巨人からみて半分の大きさだから半巨人という名称である。日本とはちょっとネーミングセンスが異なるのが面白い。人間基準での命名ではないのだった。
 大きさは4mから5mというところ。別名大地巨人と言って植物化した部分を持っているのが特徴である。ちなみにトヨタさんは天空巨人という種族らしい。どの辺が天空なのかは、分からない。
 希望世界の駿河湾沼津では、この半巨人たちを使って道路を敷設する予定である。
 新東名高速道路に沿って建設を進め、最終的には岡崎まで連絡する計画だった。こちら側、日本側で集めたエルスの情報を流せば、希望世界特有の治安上の問題は随分軽くなるだろうという目論見があったのである。
「でも、女の子ばっかりなんだよなあ」
 資料を見ながら艦橋は呟く。いくら身体が大きくても、道路建設なんてできるのだろうか。