第十九話
「火事」

NEOPASA駿河湾沼津 ネオパーサするがわんぬまづ

 バカに刃物というけれど、こらえ性のない女の子に大量破壊兵器のボタンを持たせたらどうなるか。
「大惨事だ」
  艦橋 かんばし は眼鏡を指で押して、事態を一言で説明した。 石清水 いわしみず は説明に対してモニターを一瞥して視線を戻した。
「それはまとめすぎですよ。個別の事件対応自体はスルガさん、そんなに間違ってないかと思いますけど」
 石清水は白い布に囲まれた 希望世界 エルス ライブビューイングブースを見渡して、そう反論した。
「スルガさんが火事に対して、爆風消火を行ったのは間違いありません。あと、さっきのやつについては襲われたので自衛しただけです。その自衛についても段階を踏んで、いつでも降伏できるようにしていたと思います」
 石清水、海パン姿ではあるがこれはこれで有能なのだった。一流大学は普通に出ているのである。ただし、海パンである。
「そんなことは分かっています」
 艦橋は言った。石清水は顔をしかめる。
「その割に雑なまとめ方だと言ってるんです」
「個別が間違ってなくても、結果論として領主が暴れたという記憶が残るんです」
 艦橋は石清水の説明を一蹴、ため息をついた。そんなことも分からないのか。
 石清水としては腹の立つ物言いだろうが、そういう印象があったからこそ大虎のお姉さんはスルガさんを攻撃してしまったということは理解してもらいたい。
 スルガさん、あの小さい領主さまは領民の支持を受けていないようである。
「火事はテロっぽいですけどねえ」
 小久保がライブビューモニターに繋がられたHDDレコーダーから過去の映像を確認して言った。爆発と火事が起きる10分前に出火元の路地裏にカバンか包みかを捨てた人物がいる。
「向こうの駿河湾沼津は建物が密集しているんで火事に弱いんですよ。江戸時代の消火活動の主が隣接家屋の破壊だったことを考えていると確かに石清水さんの言う通りですわ」
「テロ犯人より領主を恨みそうなのが問題だと言っているんです」
 艦橋はそう言って頭を振った。
「ついでに言うと、僕を説得したって意味はないですよ。問題は領民がどう思うかです。あと、僕だってスルガさんに悪意がないのは分かっている」
 まあいい、と背筋を伸ばし石清水の肩を叩く。
「ただ今のやり方はいい、とは言えない。今後は家臣として頑張ってスルガさんに仕えてください」
「いやいやいやいや。 NEFCO ネフコ は副業禁止ですから」
「3営業日以内に業務命令が出るようにしますよ。ただ、暫定的には事態を収拾するため、僕が指示を出します。現刻をもって石清水さんは駿河湾沼津のライブビュー対応終了、即時領主の対応業務に移行するものとします。はいこれで副業ではなくなりました」
「横暴だ!」
 海パン姿で石清水は両手を振り上げた。艦橋は横を向いた。
「横暴な領主に気に入られたんですからしょうがないでしょう。まあ、あの娘がどうなってもいいとは思っていないでしょうから、あきらめて対応してください。もちろんすぐにバックアップの体制を取ります」
 ハママツさんの時は 藤前 ふじまえ 一人に過重に対応させて、結果藤前を壊しかけたあげく異世界復興業務から逸脱してしまった苦い反省がある。いや、本人たちは苦くもないし今は幸せにやっているだろうが、関係者の一人として艦橋としては苦い経験だった。もっといい仕事のやり方があったはずだ。次はうまくやる、とも思っている。
 藤前の時は藤前がハママツさんに呼びかけるほど皆で協力して対応できていたわけではなかった。私情が入るのもいいが入り過ぎて全体計画が狂うのも駄目だ。今思えば藤前の恋心に気付いて外そうとした香取さんの対応はそんなに間違ってなかったように思う。当時はなんて酷い事を言うんだと思ったものだけど。

「異世界からこっちに干渉出来うるという件についての対応と並行して、スルガさんの方を対応しましょう。彼女が可哀想だとは思いますよね」
 艦橋が言うと、当たり前だろ、何言ってるんだという顔で石清水は睨み返した。そう、それでいいと笑って艦橋は手を広げ、拳を握る。昔の後悔を、今握りつぶしてやろう。
「異世界からの干渉問題は僕と小久保さんで対応しますんで、石清水さんは黙っててください」
「最初からどうこうする気はないです。あとですね、あの大虎というか半巨人のお姉さんのほうも対応してあげたいんですが。領民側が領主を勘違いするのも困ります」
「それについては俺がやろう」
  木林 きばやし が軽く手を上げた。
「あのお姉ちゃんとなら、幸いさっき話をした間柄だ」
「分かりました。木林さん。お願いします。あ、自分の社内立場とか職務とかは自分で作ってくださいね」
 元部下である艦橋の投げっぷりに、木林は苦笑した。
「分かった」
「あー。業務も部署も、一人に至っては会社も違いますが、頑張っていきましょう」
 艦橋はそう言ってまとめようとした。木林は腕を交差させて×印を作った。
「僕は何か間違えましたか」
「そこはもう少し感動的に言うべきだろう」
「ハードル上げないでください。あと、演説は苦手なんです」
「人の前で話せないと大変だぞ」
「いや、木林さん、今はもう会社も違うんだから指導とかいりませんから」
「またまたー。俺を巻き込んだくせにー」
「自分で志願したじゃないですか!」
 艦橋は顔をしかめて言った。親と同じく上司というものはいつまでも上司という感じなのが困る。