第十八話
「ダンス(2)」

NEOPASA駿河湾沼津 ネオパーサするがわんぬまづ (同時刻)

今日も多くの人で賑わうNEOPASA駿河湾沼津。
駐車場の一角。近くの物販コーナーではマグロの解体ショーをやっているようなさなか、異世界の映像は物騒なことになっていた。異世界の映像は物騒なことになっていた。
何を勘違いしたか、いつもの大虎のお姉さんが領主の少女、スルガさんに襲い掛かっている。
戻って来た 艦橋 かんばし が目を剥き、 木林 きばやし が目を細めるような状況である。

この時に動けたのは、ただ一人もっとも身軽な格好をしていた 石清水 いわしみず だった。
彼はうぉいと口にしてモニターを叩き、ちょっとちょっとと声を掛けていたのである。

「ちょっとちょっと。なんで戦っているんですか」
もっともな話であるのが、何かの故障か、声は届いていないよう。向こうの音声も聞こえない。そのうち画面が急激に薄れ、ノイズが入り始めた。

「情報差が極度に開き始めているんですよ」
小久保が後ろから何もわかってなさそうな石清水に声を掛けた。
「そうか、当然と言えば当然だな。心配するまでもない。この世界がこの世界を守るために、世界を繋ぐ窓が閉じようとしているんです。向こうで爆発が起きてもこっちには被害はないでしょう」
「それは、向こうと縁が切れるということですか」
「ええ、まあ」
石清水は心の大宮廷、その誰よりも壮麗な建物の中で脳内会議を開催した。

石清水A:あー。僕は新婚ですが何か。
石清水B:俺には関係ないよ。
石清水C:だからドッキリだって。
石清水D:おっと、すいません。疲れていたようです。
石清水E:これはちょうどいい。どう見ても何もかもめちゃくちゃだ。今日は家に帰れるだろう。
脳内アナウンス;これより議長から発言があります。
議長石清水;現状は笑えるだろうか。
石清水A:笑えない。
石清水B:笑えない。神だよ。神はいるんだよ!
石清水C:笑えない。たとえドッキリでもだ。
石清水D:笑えない。おっと、すいません。疲れていたようです。
石清水E:笑えない。前言を撤回する。全石清水はアクションを開始すべきである。

石清水は真っ青に見えるほど目を輝かせた。人間、どこでどうやってスイッチが入るのか、分かったものではない。石清水という人間もそうだった。かちりと音を立てたように、彼は頭を振った。
「情報差ってなんですか」
「向こうで今、絶技……あー、魔法みたいなものでありえない事が起きています」
「こっちでありえない事が起きたらどうでしょう」
「情報差は縮まりますね」

石清水は腰を平行に動かすと珍妙な踊りを始めた。皆があっけにとられる横で、モニターの画面が回復した。遠い向こうの世界の音声が回復する。
この機に乗じたのが艦橋だった。艦橋は石清水の横に立って、いい声でお待たせしましたと明るい声をあげた。

木林が、思わず笑っている。

艦橋は小声で隣の石清水にだけ聞こえるように声をかけた。
「聞け。僕はあの領主さまに借りがある。大人であれば、一生を掛けて償なわねばならぬ借りだ。それは子供に嘘をついたという借りだ。僕は借りを返すため、君を利用する。ご了承いただきたい」
「僕は笑って死にたい。そのためならなんでもする」

光の矢に撃たれようとする半巨人のお姉さんを見て石清水は、傲慢にも胸を張った。
「あの矢、消すんでしょ」
「僕のトークと君の踊りしかないが」
「それでも、消すんでしょ」
当たり前だと艦橋は眼鏡を指で押した。

その間にも石清水はくねくねと、国民的家族アニメの腰の動きでダンスを踊っている。まさか、あのアニメでしか見られないようなあの物悲しい日曜の終わりを告げるダンスが現実に顕現しようとは。

「私が何を待っていたってのよ! その言い方おおおおおおかしいわよ」
スルガさん激しく動揺している。あと少しだ。艦橋は空気を読めない顔で口を開いた。
「何故動揺されているんですか」
計算されたシュールさで、眼鏡を光らせて艦橋は言った。
海パンを指さすスルガさん。
「それだと私がその踊る変な生き物待ってたみたいじゃない!」
にこりと笑い、オクターブをあげて大声を出す艦橋。
「あなたが家来にしたいというからこの艦橋! 説得してきたのです!」
「け、家来にしたいと言ってた時は……踊ってなかった……」
スルガさんは、石清水から目を逸らそうとして失敗している。もう少し。
「踊れと言っていたでしょう」
にこやかな艦橋の言葉に合わせて、海パン姿の石清水は高速に踊り始めた。
だが、光の矢の乱舞は消えぬ。艦橋は石清水の脚を踏んだ。石清水が一歩前に出た。そう、あと一歩。
「OKガール!」
光の矢が暴走してどこかに飛び去っていった。石清水は眼鏡を指で押す真似をして、笑いを隠した。
もはや戦闘どころでないスルガさん。ついにこっち側に怒り出した。
「カンバシ、説得するとか言って壊したわね! 早く戻して!」
「いや、最近のゆとりでも叩いたくらいでは壊れないですよ」
「壊れてる、凄い壊れてるから!」
「はあ。じゃあ、少し待ってください。すぐいい家来連れてきます」
石清水は大虎のお姉さんとアイコンタクトをしたようだった。すぐに別の笑みを浮かべてスルガさんを見た。
スルガさんは空中で足を踏み鳴らす大技を使った。
「頭の中とかいじらないでいいから! そのままでいいから! あと頭なおしたらすぐに連絡しなさい。一番によ。他のことなんか許さないから」
スルガさんは恥ずかしいのか飛んで行った。僕が部下になりたかったんだがなと艦橋は呟き、まだ踊っている石清水に足をのばして転ばせた。