第十七話
「ダンス(1)」

希望世界 エルス   駿河湾沼津 するがわんぬまづ

 爆風で炎を消すという火炎術師としては際だった技で火を消し止めたスルガさんは、割と失意の底にある。
 家来にしてやると言った異世界の人物に勢いよくだが断るとか言われてしまったのである。権力と絶技という二つの力のせいで、口にすればたいてい何でも叶えられてしまうので極力自重してきた彼女が、珍しく欲しいと言ったものだった。

 やっぱり私、皆から嫌われているんだ。
 海パン男に言われただけで世界全部から言われているような気になってしまう少女ならではの一途さで、スルガさんは絶望した。地に脚がつかない感覚。まあ、実際浮いている。

 火を消したというのに皆は恐れて逃げ惑っている。領主だ、領主が来たと、まるで自分が火元のような言われようだった。スルガさんは、教育程度が低すぎるのよ皆燃えちゃえと口から歌が出かけるが、思わず涙が出たせいで中断した。他人が言うほど無慈悲でもないのだった。
 片手を軽く上げて、飛んできた大きな柱を受け止める。正確には障壁で静止させる。かつて建築用に作った種族、大地巨人の女が屋根の上から睨んでいる。
「なんてことすんのよ!」
 意味が分からない事を言って、意味不明の怒り方をしている。いや、分かる。こいつも同じだ。私を嫌っている。
 攻撃のせいか、涙も涸れた。もはや邪魔するものはなにもない。
 歌が口から溢れた。
”我は白き手の乙女に告げる”
”それは闇が深ければ深いほど、夜が暗ければ暗いほど、燦然と輝く一条の光”
”それは呼び合う人の心が、闇を裂くから”
”白にして乳白の我は 万古の契約の履行を要請する”
”我が手の中には弓がある。悲しみが深ければ深いほど、絶望が濃ければ濃いほどに、心の中より沸き上がる、くらやみを払う意志の弓”
”この手は弓持つ手。この手は闇を払う手。この手は、呼び合う手”
”完成せよ! 闇を払う矢”

 手を伸ばせば光の矢が48本、大地巨人を追跡しながら飛翔する。大地巨人が柱を振って迎撃するが数本は受けられても行き過ぎた矢が大きく巡って再び大地巨人に襲い掛かる。
 大地巨人は柱を引き抜くため穴の空いた天上から建物に飛び降りた。
 矢が建物に突き刺さって爆発した。
 建物が倒壊し、あちこちを汚した大地巨人の女が姿を見せた。
「化け物め」
「お黙りなさい。劣等種族よ」
 手を軽くあげれば光の矢が96本。右手と左手から現れる。
「384本が生き残ることが出来た最高記録だけど、あなたはどこまでやれるかしら」
 新しい柱を引き抜いて、威嚇する大地巨人の女。
「強いからって何やってもいいって思うな!」
「そうね。支配には見せしめがいるもの」
 光の矢が四段の波状攻撃で大地巨人を襲いだした。手数に圧倒され、怪力も役に立たずに防戦一方、そのうち光の矢に撃たれまいと避けるうちにダンスのようになった。光のダンス。
「夜の見ものとしてはいいけれど、まだ優雅さが足りないわ」
 スルガさんは家来が欲しかった自分をあざ笑うように192本の光の矢を出した。
「もっと高速に踊りなさい」
 瓦礫の上で踊る大地巨人の女が歯を見せて威嚇のような笑いを見せたのが見えた。
 背後から同じような大地巨人の女たちが瓦礫の山や建物の壁をぶち破って現れる。その数6、全員が柱を武器として持っており、一斉にスルガの背に投げつけた。
 柱が同時多方向に突き刺さるというよりも、突き潰す。
 乱舞していた光の矢が消えた。
「どうだい。あんたと違ってこっちは仲間がいるんだ」
 大地巨人の女が、長い髪をかきあげながら言った。

「何人いたって同じよ」
 頭上から声がして上を見る巨人たち。夜の空が明るくなる。明るいのはそう、何千もの光の矢が回っているからだった。
 半透明な翼を広げ、スルガさんは静かに言った。
「皆、死んじゃえ」

 虚空に浮かび上がる窓に、海パンで踊る姿が見えたのは、その直後である。
「お待たせしました」
 窓の向こう、踊る海パンの横に立つ額から血を流した 艦橋 かんばし が言った。
「私が何を待っていたってのよ! その言い方おおおおおおかしいわよ」
 スルガさんは戦闘を中断して言った。まあ、戦闘どころではない。
「何故動揺されているんですか」
 眼鏡を光らせて艦橋は言った。本人はそういうつもりではないだろうが、踊る海パンの横でやると、別の印象になる。
 海パンを指さすスルガさん。
「それだと私がその踊る変な生き物待ってたみたいじゃない!」
「あなたが家来にしたいというからこの艦橋! 説得してきたのです!」
「け、家来にしたいと言ってた時は……踊ってなかった……」
 スルガさんはそう言って恥ずかしそうに顔を背けた。
「踊れと言っていたでしょう」
 艦橋の言葉に海パン姿の 石清水 いわしみず は高速に踊り始めた。街は煌めくマリッジブルー、ウイングしてるミッドナイトである。
「OKガール!」
 海パン石清水は手を広げながら言った。光の矢が暴走してどこかに飛び去っていった。
 だんだん顔が赤くなるスルガさん。ついに怒り出した。
「カンバシ、説得するとか言って壊したわね! 早く戻して!」
「いや、最近のゆとりでも叩いたくらいでは壊れないですよ」
「壊れてる、凄い壊れてるから!」
「はあ。じゃあ、少し待ってください。すぐいい家来連れてきます」
 見事戦いを収めて艦橋は笑顔を向けた。
「頭の中とかいじらないでいいから! そのままでいいから!」
 スルガは言った。言ったあとで山の上の宮殿に戻り、ちょこんと座って続報を待った。