第十三話
「小久保」

○川崎管制センターから NEOPASA駿河湾沼津 ネオパーサするがわんぬまづ

 川崎管制センターからNEOPASA駿河湾沼津までは2時間もかからない。領主が怒っているとなれば今すぐ行ってこいと言われ、それで小久保と二人、車で移動した。
 今回割り当てられた NEFCO ネフコ の社用車はトヨタのランドクルーザーで、これは高価なものの格別に丈夫なせいで、日々大変な距離を走る巡回車として採用されていた。
 今回は予備で保管されている車を借りて出ることになった。
 川崎管制センターの玄関先に回されてきた黄色と白のランドクルーザーは普段軽自動車くらいしか運転しない 艦橋 かんばし からするといかにも大きく、大げさに見えた。
「いやぁ、ゆったりした車ですね。いいですわぁ。腰に優しいですわぁ」
 小久保の声を聞き流し、ぶつけたらどうしようと艦橋は頭を抱えた。もっと小さな社用車はなかったのか。なかったんだろうなあ。
「たかーい」
 小久保は乗ってはしゃいでいる。艦橋はええいままよと車を走らせた。暗殺よりは少しはマシというものだ。

 NEFCOの巡回車は各種のセンサーを積んで高速道路を走っている。異世界の情報が混じったこちらの世界の情報を収集して、管制センターに送信、センターで分析と分離を行って異世界情報だけを取り出すことをしている。この任務には専用車両としてロードパンサーという車両があるのだが、こちらは特注品の塊で一品物の部品も多く、高価というよりは高価すぎるせいで1台しか保有していなかった。それではカバーできる範囲が狭いと、ハイローミックスで市販車ベースの巡回車も作られている。艦橋と小久保が乗って移動するのはこのローである巡回車だった。
 ローとはいえ、それはあくまでロードパンサーと比較しての話。高いのは高い車両だった。

 車両保険入っているんだろうなと何周か回った考えをしていたら、暇になったか小久保がダッシュボードを開けたりして家探しというか検分を始めていた。運転中に気になると言ったらありゃしない。
「何してるんですか、小久保さん」
 小久保はマニュアルを取り出して顔を近づけて眺めている。
「いや、架装にあたって設計手伝いはしたんですけど、実際どうなってるのか気になって」
「え。そんなことまでされていたんですか」
「意見だしだけですよ。どんなセンサーがいるとか、こればかりはこっちが指定しないと作れんでしょうから」
「なるほど。小久保さんは大学時代から 希望世界 エルス の研究をされてたんでしたっけ」
「ええ。研究室に残ったものの、就職先がなくて困ってたんですわ」
 そりゃまあ、今でこそ少しの脚光を浴びているが、元は数十年間、ほとんど忘れ去られていた怪奇現象である。
「大学の教授は希望世界に懐疑的で、そんなものはないという立場で研究してましたわ」
 小久保の言葉に艦橋は驚いた。運転のせいで顔が見れないのが残念だ。
「え。研究しているのに、ですか」
 そう尋ねると、小久保はマニュアルから目を離した。
「馬の鳴き声がしたとき、シマウマだと思ってはいけない。幽霊事件という現象を前に、異世界があると信じるほうがどうかしてますわな。それは馬の鳴き声でシマウマだと騒ぐようなもんですわ」
「なるほど。それはそうですね」
 そして面白い。そうか、学者というのは存外まともなのだなと、失礼なことを艦橋は思った。
 小久保は目を細めて外の風景を見ている。今海老名を通過したところだ。
「それじゃあ、批判的に最初研究してたんですよね」
「ええ。そもそも異世界だと発表したルグウェール先生がこっちじゃ有名な山師だったんで」
「なるほど」
「大幅な工期の遅れをあの先生の珍説のせいだったいうことにしようとしたのかなってね。まあ、研究職にも人間の好き嫌いはあるってことですわ」
「ははぁ。小久保さんが在籍されていた研究室は、嫌いなほうだったと」
「そうですね。まあ、国内の学者が同じこと言っても、つまりは異世界があるとか言っても、当時の政府が受け入れたかどうか。結局外国人の意見だから受け入れたんじゃないかとか、そういう感じだったと聞いてます」
 昔は昔で大変だったのだなと、艦橋は思った。新東名高速道路に入ると高速走行なのに音が静かになり、振動がほとんどなくなった。さすが、新技術を導入した道は違うなあと、右手側高原のようになった風景をチラ見する。
 どこか、今の自分の状況にも繋がる話だ。いや、今の流れなら、繋げて話ができるんじゃないか。小久保さんというかその知識を味方にできればこんなにいいこともなかろう。
「ところでですね、小久保さん」
「はい。なんでしょう」
「国内では小久保さんのところが研究してたんですけど、元は外国人が研究して異世界だとか言ったんですよね。海外の研究はどうなんですか。今も外国では研究とかしておられるので?」
「海外のほうが研究してますよ。よく外国人留学生とか来てましたもん」
 あれ、僕の寿命短くなった?
 艦橋は目をまわしそうになった。これは詳しく話を聞かねばなるまい。
「もう少し詳しく、お話聞かせてくれませんか」