第十七話
「助太刀」

 楽器を抱えて走るハママツは、すぐに足を止めた。
 もう一頭の戦闘騎が緩やかに姿を見せた。同じく母の顔で笑っている。回り込まれたか。いや、別の奴だ。
 頭の中では必死に逃げろ、逃げろと喚いている。
 でも、どこに。
 母の顔をした戦闘騎は、おまえの腕は美味いだろうねと笑いながら言っている。
 駄目だ。このままでは思い出すらも汚されて殺される。
 もう駄目だと思った瞬間、耳をつんざく音で我に返った。

 見慣れない一本の矢が地面に刺さった。
“走れ! 生き延びろ!”
 頭の中の声に押されて考えることもやめてまた走った。
 100歩ほど先、真っ白な戦闘騎の上に乗った少女がいる。二の矢を構え、嗅いだこともない匂いを纏っていた。
 矢を放ち、戦闘騎の上に立ち上がってそのまま上に飛んだ。
 真横に着地する。全身に見慣れぬ武器を持った少女。瞳、炎のよう。
「姉上!」
「任せなさい」
 真っ白な戦闘騎が獣の顔のまま微笑むと、その口で歌を謡いだした。


光輝背負うもの 秩序と法の王
聖なる峰の頂に座す至高の王、ハーン・ハンに闇と戦う故を持って請願す
秩序の軍団員! 法の執行者! 光おびしもの!
汝の忠実なる配下である我は、根元の光もて敵を撃つ!
完成せよ、地から伸びる光の牙!

 地面を砕きながら光の柱が何本も現れて女の顔をした戦闘騎を下から貫いた。
 貫かれながらげらげら笑うハママツの母の顔をした戦闘騎。
「久しぶりの戦いだ。ああ、嬉しい。だが多勢に無勢。こちらは一六、そちらは一頭」
 流れるように次の絶技を謡いながら白い戦闘騎は微笑んだ。
「どうかな。私には妹がいる」
「地べたすりが? 絶技も使えぬのに」
「確かに私の妹は絶技が使えない」
 白い戦闘騎は何本もの光の矢を顕現させながら笑った。
「だが。たかがそれだけで戦闘力を過小評価してもらっては困る」
 光の矢が曲がりながら刺さって二頭目をしとめた。
「私の妹はメイドインジャパンだぞ」

 着地した妹と呼ばれた人間の少女は全身に見慣れぬ武器を持っていた。
 ハママツと入れ違いで敵戦闘騎の前に立ち、紐を引っ張って武器を展開。布に包まれていた膨大な数の武器が目の前に並べられる。

「おやおや、一人でそんなに武器を持ってどうするの?」
 戦闘騎の言葉になんの反応もせずに少女は長い鉄の筒を持った。小さな皿に火薬を入れて構える。文字通り火縄に火をつけ口火を切った。
 ハママツが耳を塞ぐほどの轟音。
 少女は一発撃って戦闘騎の眉間を吹き飛ばした。
 もはや他の戦闘騎も言葉を捨てた。少女はやっと微笑んで地面に並べた火縄のついた鉄の筒を続々持ち替えながらぶっ放した。
 二方向同時の攻撃に槍と短筒で応え、少女はゆらりと立ち上がった。前髪が揺れる。
「私はナガシノ。ハママツだな。故あって助太刀する」
 二本の小太刀を抜いてゆらりと構えた。