第十三話
「再生(2)」

  NEFCO ネフコ を改編し、異世界への支援機構とする。

 NEFCO調査部が打ち出した企画が取締役会で決議されることになった旨、通達が来た時、 和歌 わか は午前半休をとっていた。前日飲み過ぎたのである。
 飲み会の席にかこつけて、本社に戻るように内々の連絡を受けていた。帰って本社に戻れそうと妻に報告して家の中で二次会やって、朝起きれなかったのである。

 俺の仕事は終わったと思っていた和歌は、連絡を受けて驚いた。
 岩井さんってそんな正義感あったっけ。
 正直、そう思った。受けるイメージと全く異なる、迅速で苛烈な行動だった。社員8割の署名まで集めている。

 いや、とはいえな。
 和歌は自分の荷物を整理しながら思う。
 異世界を救うのも助けるのも、一企業の範疇ではない。こういうことは国が動くべき問題だ。
 道路関係の仕事にあるため、和歌とて政治家とまったく接触がないわけではない。その上での知見として、国が信用できないということもないだろうと思っていた。
 異世界支援のためにハコ物はつくるだろう。情報センターとか対話と交流のための施設とか。常駐する専門家や学者もあって各大学との協力関係もできるはずである。
 そこにNEXCO中日本としても寄付の形で資金援助する。それが和歌の思い描く 希望世界 エルス 対応だった。日本という自覚なき大国は、異世界相手だろうと通常の対応をやって通常通り処理していくだろう。
 だが、岩井は、そんなことを無視して動いている。国を信用していないのか、それとも支援規模が足りていないと思っているのか。
 どうも分からない。
 NEFCOで新規雇用された社員が自分の食い扶持を守るために会社組織存続を考え、署名するのは分かる。それはそうだ。そうだろう。でも母体は違えど出向組の我々は違う。そこが分からない。
 ちょうど 艦橋 かんばし が目の前を歩いている。和歌は何気なく口を開いた。
「岩井さん、どれくらい愛国心あるんだっけ」
「考えたこともありませんね。なんですか、それ」
 艦橋は眼鏡をやめたようである。和歌は苦笑した。
「いや、署名の件でね。国を信頼してないのかな、とか」
「ああ、NEFCO改編の」
「どう思う?」
「そうですね。岩井さんがまず、こんなに熱心なのがまず怪しいです……どうかしました?」
「いや、そこから疑問があるとは思わなかった。珍しいのかい」
「仕事好きなんですけど、仕事に熱中していることを部下に知られると死んじゃう星人なんですよね。あの人」
「いや、仕事だろ、真面目にしないでどうするんだ」
「あ、ドワンゴはそうでもないんです。なんというかな。俺たちがやってることは仕事じゃないんだから真面目にやれよって感じというか」
「頭が痛くなる話だが、本気なんだな」
 艦橋は話しかけてきたのはそっちだろうという顔をしたが、真面目に辛抱強く言った。
「嘘偽りありません。現状を見て、自分は岩井さんの家族の命がかかっているとか、そっちを疑います」
「なるほど。分かった」

 何が分かったかは明らかにせず、和歌は一人で車を駆って工事現場に向かった。技術部門が開発した画像鮮明化眼鏡をかけ、見学台を上がり、現れた巨人の幽霊と目を合わせる。
 巨人の髪をまとめる髪飾りのバイトの猫たちが瞳を動かして和歌を見ている。巨人も、ちょっと不思議そう。
「どうかしたのですか。思い詰めた顔をして」
「いや、別に」
「戦争でもありました?」
「幸いにもまだ起きていない」
「じゃあ、もっと笑っても」
 巨大な姿で可憐な少女のような顔で巨人は言って笑った。
「もし、我々がそっちを支援しようと言い出したら、どうする?」
「どうやって、ですか」
 巨人の幽霊は手を伸ばした。びっくりする和歌の身体をすり抜ける。巨人の幽霊は微笑んだあと不思議そうに口を開いた。
「姿は見えて言葉を交わせても、行き来なんてできはしないのに」
 和歌は大きな目を見て口を開いた。
「それでもだ」
 巨人の幽霊は少し考えた後、少しだけ笑った。
「じゃあ、嬉しいかな」
「分かった」
 和歌は背を向けると、眼鏡を取りながら階段を下りた。
「家族の命がかかっているか。だがな、岩井さんより俺の方が向こうとはずっと親しいんだぞ」
 心の中で妻に謝り、携帯電話を取り出す。
「艦橋、企画部の署名をとりまとめてくれ。本社に戻るにしても、やりのこしたことがある」
「もう出来ています」
「よくやった。サラリーマンとして、ぎりぎり一歩踏み外さない範囲で俺もやるぞ。希望世界を支援する」